言葉でしか伝わらない、分かってたのに。

言い残したことが
もうなくなってしまったの
だから もう かなしく くやしいけれど
あなたに会いにいけないわ
(銀色夏生『やがて今も忘れ去られる』より引用)

 こちらは、詩人・銀色夏生さんの写真詩集『やがて今も忘れ去られる』に綴られていた言葉。もしこの二人が別れた恋人同士だとすると、言いたいことを言い尽くした主人公は、少なくとも今後“言えなかった後悔”が未練に変わるようなことはないのだと思います。しかし逆に「言い残したこと」ばかりが胸の内にある場合はどうなのでしょうか。
 
 今日のうたコラムでは、まさにたくさんの「言い残したこと」が心で締め付けられている主人公を描いた新曲をご紹介いたします。2018年10月17日に“足立佳奈”がリリースする1stアルバム『Yeah!Yeah!』収録曲の「あの日に戻れるなら…」です。現在、歌詞先行公開中であり、注目度ランキングでは最高3位を記録。もう、タイトルから後悔や未練が伝わってきますよね…。

遠く離れて気づくよ
あなたの気持ちを
写真立てに映るあの日
笑ってくれた日もあったね

今更だと私も思う
でもまだあなたを
諦められないの
後悔ばかりなの

喧嘩の時の「ごめんね」の一言も
泣きたい時もあなたに言えなくて
「あの日に戻れるなら…」/足立佳奈

 遠く離れてから想いを馳せる<あなたの気持ち>や<あの日>のこと。すると、別れる前には気づけなかったいろんな“本当”が見えてきたようです。たとえば<笑ってくれた日もあったね>ということは、以前の<私>にとっては“そうじゃない日”の印象のほうが多かったということでしょう。喧嘩をして不機嫌だったり。お互い泣きたい気持ちになったり。だからこそ二人は別れを選択することになってしまったはず。

 でも<笑ってくれた日もあった>のだと気づいたとき、きっと<私>はその原因を考え、自分のせいだと思ったのではないでしょうか。つまり<「ごめんね」の一言>や本音を口にしていたら“そうじゃない日”ばかりが続くことはなかったんじゃないかと。ちゃんと愛されていたし、幸せなときだってあったのに、自分が壊してしまったんじゃないかと。たくさんの「言い残したこと」が大きな<後悔>になり<諦められない>未練へと変わっていったのです。

繋いだ手と手のぬくもり
私を呼ぶ声
覚えてるよ
忘れないよ
あなたのことなら全部

なくした時計の贈り物
私まだあなたに
伝えてないの
ごめん こわかった
「あの日に戻れるなら…」/足立佳奈

 さらに2番の歌詞では、回想シーンがより愛おしさを増して描かれてゆきます。しかも、こうしてほしかったとか、あれが嫌だったとか、<あなた>への不満はひとつもありません。思い出されるのは<笑ってくれた日>や<繋いだ手と手のぬくもり>など幸せな時間ばかり。もう戻れない眩しい記憶が今の自分の<後悔>を大きくし、いっそう苦しいことでしょう…。また<なくした時計の贈り物>は、二人の時間が失われたことや<私>の心の時間があれから止まってしまっていることの象徴にも感じられますね。

共に過ごした 思い出の数だけ
言えないことも 少しはあるよね

素直になれれば 私は
良かったかな
隠し合いも許し合いに
変わったかな
素直になれれば あの時
良かったんだ
言葉でしか伝わらない
分かってたのに

言葉でしか伝わらない 分かってたのに
「あの日に戻れるなら…」/足立佳奈

 そして、この歌でもっとも印象的なのはサビの<言葉でしか伝わらない 分かってたのに>というフレーズです。何度も<私>はその後悔を噛み締めているのです。おそらく、ちゃんと“言葉で伝える”ということは<私>がもっとも意識し、大切にしてきたこと。だから<あなた>にも常々“ちゃんと言葉にして”と言っていた。でも、実はそれも一つの別れの原因であった気がします。
 
 長く一緒に過ごせば<言えないことも 少しはある>と今ならわかる。だけど当時は、ただ<あなた>に“ちゃんと言葉にして”と押し付けて、時に喧嘩になり、やがて<隠し合い>になってしまった。それに<言葉でしか伝わらない>と思いすぎていたがゆえに<私>は、気持ちをうまく表す言葉を見つけられないとき、黙ってしまった。素直に行動で表すこともできず…。言葉でしか伝わらない、分かってたのに、分かってたから、二人は悲しい結末を迎えてしまったのかもしれません。

今の私があの日に戻れるなら

素直になれない言葉を声にして
怖がらずに あなたを見て 伝えたい
素直になれれば あの時
良かったんだ
言葉でしか伝わらない
分かってたのに

言葉でしか伝わらない 分かってたのに

今でもまだあなたが好き 大好きです
「あの日に戻れるなら…」/足立佳奈

 今も変わらぬ想いを真っ直ぐに伝え、幕を閉じてゆく歌。<私>が戻りたい<あの日>とは一つではないでしょう。笑ってくれた日。喧嘩した日。泣きたい日。手と手を繋いだ日。時計の贈り物をなくした日。しかし、実際はどの<あの日>にも戻ることはできません。もう<私>は未来へ進むしかないのです。言葉でしか伝わらない、分かってたのに、分かってるから、今こそ<あなた>にちゃんと想いを届けなければならないのです。あの日の<あなた>ではなく今の<あなた>に。
 
 遠く離れてしまった誰かに「言い残したこと」ばかりだと後悔している方。是非、その想いを重ねながら足立佳奈「あの日に戻れるなら…」を聴いてみてください。そして、みなさんも<あの日>ではなく今の想いを今、伝えられる強い勇気が持てますように…!

◆紹介曲「あの日に戻れるなら…」
作詞:足立佳奈
作曲:足立佳奈

◆1st Album『Yeah!Yeah!』
2018年10月17日発売
初回生産限定盤 SECL-2335~2336 ¥3,700(税込)
期間生産限定盤 SECL-2337~2338 ¥3,500(税込)
通常盤 SECL-2339 ¥3,000(税込)

<収録曲>
1.ココロハレテ
2.フレーフレーわたし
3.この夕日は誰かの朝日なんだ
4.チェンジっ!
5.ミライステップ
6.私今あなたに恋をしています
7.You Your Yours
8.僕らのスタート
9.サクラエール
10.あの日に戻れるなら…
11.ナナ色のうた
12.笑顔の作り方~キムチ~