嫌だな、愛しいとこだけ思い出すんだ。

 2018年9月5日に“ものんくる”がニューアルバム『RELOADING CITY』をリリースしました。今日のうたコラムでは、今作に収録されている新曲「夕立」をご紹介。夕立とは、夏の午後から夕方にかけ、にわかに激しく降り出す大粒の雨のこと。雷を伴う場合も多いのですが、短時間で止み、その後は涼しい風をもたらします。まさに今の時期、各地で頻繁に起こっていますよね。

夕涼 並木通り きっかけ待つ言葉たち
君の歩幅で なんとなく気づいていたよ
いくつものバッドエンド 描くのももう疲れたし
笑い話探そう 報われないだろうけど

“いつか”が 来たんだね

温かい雨が 突然降り出し
夏の銀河系の 音を奪った
抱きしめたのは 最後の抵抗
君の唇 決して見ないように
「夕立」/ものんくる

 そんな夕立と、恋人たちの終わりを重ねて描かれているのが、この歌です。冒頭、並木通りの葉が風でサワサワと揺れるかのように、心の中で、最後に<君>が告げるであろう言の葉や、<私>が返すであろう言の葉が、やって来た“いつか”でざわめいております。きっとお互い、もう終焉が近いことはわかっていた。それでも<いくつものバッドエンド>想像しながらも、日々を繋いできた。だけど、いよいよ今日が最後の日…。

 それをいつもと違う<君の歩幅で なんとなく>気づくのです。言葉が放たれるより先に気づけるほど<私>は<君>をよく見つめ、愛し尽くしてきた証でしょう。そして<きっかけ待つ言葉たち>が、声に変わる合図となるのが、突然振り出した<温かい雨>=夕立。言われることはわかっている、わかっているけれど、わかっているからこそ、別れを告げる<君の唇 決して見ないように>抱きしめて<最後の抵抗>をする<私>の激しい感情が“大粒の雨”と重なって切なく伝わってきます。

例えば君の マヌケな寝顔だったり
マンガ読んでるいつもより真剣な顔
嫌だな 愛しいとこだけ思い出すんだ
出鱈目だらけ 綺麗事ばっかじゃなかったでしょ
「夕立」/ものんくる

記憶は美しく 雨に溶け出してく
思い出すあの日の君と彷徨う
記憶は美しく 雨に溶け出してく
「夕立」/ものんくる

 さらに、別れの時に厄介なのが、いざ失うとなると<例えば君の マヌケな寝顔だったり マンガ読んでるいつもより真剣な顔>がどうしようもなく愛おしく思い出されることなんですよね。本当は「マンガなんかより、もっと構ってよ!ちゃんと愛してよ!」と不満を抱いたときが多々あるとしても。最後の最後、全て<記憶は美しく>なってしまう。ゆえに<私>は自分自身に<出鱈目だらけ 綺麗事ばっかじゃなかったでしょ>と言い聞かせ、なんとか<思い出すあの日の君>を振り切ろうとしているのです。

夕立みたいな二人だったなんて
いつかどこかで思うのかな
新しい夏が それぞれ始まる
雨が上がれば 涼しいかも

温かい雨が 突然降り出し
夏の銀河系の 音を奪った
抱きしめたのは 最後のお別れ
この雨過ぎたら 私は行くから
「夕立」/ものんくる

 そうやって記憶に折り合いをつけて、抱きしめて<最後の抵抗>もして、やっと想像できたのが<雨が上がれば 涼しいかも>という少し先の未来です。やがては、ひとときだけでも激しく愛し合えた<夕立みたいな二人だったなんて いつかどこかで思う>日がやってくるかもしれない。雨上がりの雫に光が反射して輝く並木通りの先で<新しい夏が それぞれ始まる>かもしれない。歌のラストで見えるのは、そんな希望的な光景。

 だから、前半では<抱きしめたのは 最後の抵抗>と、まだ激しい感情が降りしきっていましたが、終盤では<抱きしめたのは 最後のお別れ>と、終止符を受け入れております。そして<この雨過ぎたら 私は行くから>と、前に進んでゆく決意を胸にしております。とことん想いを出し切って、愛し尽くした恋は、終わってからも晴れ渡って、美しいのでしょう。

 このように、別れの切なさや悲しみを描きながらも、どこか憧れてしまう魅力を放っているのが、ものんくる「夕立」なんです。突然の夕立がやってきたとき、夕立みたいな恋に落ちてしまったとき、激しい恋の終焉を感じているとき、是非あなたもこの歌に浸ってみてください。

◆紹介曲「夕立」
作詞:角田隆太・吉田沙良
作曲:角田隆太・吉田沙良

◆ニューアルバム『RELOADING CITY』
2018年9月5日発売
VRCL-4044 ¥2,500(税込)

<収録曲>
01. RELOADING CITY
02. 夕立
03. アポロ
04. 魔法がとけたなら
05. HOT CV
06. RELOADING CITY(tofubeatsremix)
07. 何度でも繰り返し夢見る