哀しい哀しい恋の終わり、その横によかったらいさせて。

 2018年7月18日に、熊本出身のシンガーソングライター・ヒロキによるソロプロジェクト“リリィ、さよなら。”が2年ぶりオリジナルアルバム『愛する以外になかったからさ』をリリースしました。今日のうたコラムでは、今作から新曲「やさしい恋の始めかた」をご紹介!描かれているのは、哀しい哀しい恋の終わりを迎えてしまった<君>と、その<君>にやさしい気持ちでそっと寄り添いながら、恋心を抱いている<僕>の姿です。

君のその目から たった今こぼれ落ちた
海原をせき止めるこの指が乾く頃

あいつは遠い街でよろしくやっているよ
さぁ 帰ろう 手を取って 大丈夫 怖がらないで

哀しい哀しい恋の終わり
その横によかったらいさせて
やさしいやさしい気持ちで
君を見つめていたいんだ
「やさしい恋の始めかた」/リリィ、さよなら。
 
 人が本当に弱って、哀しみに溺れているとき、言葉はあまり役に立ちません。それゆえに<僕>はまず<君のその目から>海原が出来そうなほどにこぼれ落ちてゆく涙を、ただただ自分の指で拭い続けます。その静かな温もりこそが<君>の冷えきった心を守るのです。そして、哀しみの波が少し穏やかになってきたとき、やっと<僕>は<君>がちょっと先の“未来”を想像できるような“言葉”で語りかけるのです。

 涙はちゃんと乾くものであること。どんなに哀しんだところで<あいつは遠い街でよろしくやっている>こと。元の自分に帰ることは怖くないこと。一人きりでは想像できなかった<この指が乾く頃>のことを<君>は<僕>によって、思い浮かべることができたのではないでしょうか。やがて<この指が乾く頃>にはその<手を取って>みることができるのではないでしょうか。また<やさしいやさしい気持ち>で自分を見てくれている人の存在自体が、哀しいときの大きな支えになりますよね…。

「きっと君ならいつか『忘れたい。』じゃなくて
『忘れなくていい。』って思える日が来るよ。
そして歩き出す日に最初に君に手を差し出すのは
もしよかったら僕がいいな。どうかな。」
「やさしい恋の始めかた」/リリィ、さよなら。

 さらに<僕>は多くの人が言うような「そんな恋、早く忘れちゃいなよ」なんてセリフは決して口にしません。たとえどんな恋だったとしても<君>にとってはかけがえのない大切な恋だった。それをわかっているから<『忘れたい。』じゃなくて『忘れなくていい。』って思える日が来るよ>と、伝えているのでしょう。その言葉は「素敵な恋をしたんだよね」という“恋の肯定”であり、同時に「いつかはその思い出を胸に、次の素敵な恋へ歩き出せるよ」という“君の肯定”でもあります。

「私は誰からも必要とされてないし、
取るに足らないし 情けなくて自信もないし。

哀しい哀しい恋の終わり
それが私にはちょうどいいのよ。
優しい優しいあなたに
似合う人間じゃないのよ。」

君は泣くけど
「やさしい恋の始めかた」/リリィ、さよなら。

 ただし、傷ついたばかりの彼女はまだ、自信も希望も持つことができずにいるようです。きっと<僕>の優しささえも光として眩しすぎて、痛くて、怖いのでしょう。でも逆に、弱っているときだからこそ真っ直ぐに受け止めることができる想いもある。その想いは、涙する彼女の本音を受け止めた<僕>が続ける<君は泣くけど>…という言葉の先に綴られております。どんな気持ちを<僕>は伝えたのか。それは是非、歌詞の全文を読んでみてください。

「冗談みたい。」って君が笑ったそばで
嬉しそうな顔で今度は泣くから
僕もつられて泣いて 朝まで2人ぐちゃぐちゃになったまま
また眠ろう

そうだ
やさしい恋を始めよう
僕とやさしい恋を始めよう
一緒にやさしい恋を始めよう
「やさしい恋の始めかた」/リリィ、さよなら。

 さて、このように幕を閉じてゆく歌。もう<君>の防御壁は剥がれ、冒頭では“ひとりの哀しみ”だった涙が、ラストは“ふたりの嬉しい涙”に変わっておりますね。こうして歌の中で、すでに<やさしい恋>は動き始めているのです。今、誰かに手を引いて一歩でも前に進みたいという方。誰かのひと言を必要としている方。哀しい哀しい恋の終わりを迎えたすべての方に、リリィ、さよなら。の「やさしい恋の始めかた」が届きますように。そして、あなたもゆっくりゆっくり、やさしい恋を始めることができますように…!

◆紹介曲「やさしい恋の始めかた
作詞:ヒロキ
作曲:ヒロキ

◆new mini ALBUM『愛する以外になかったからさ』
2018年7月18日発売
POCS-1714 ¥1,944(税込)

<収録曲>
1.やさしい恋の始めかた
2.ハンドメイド
3.オーバーラップ   
4.雨の中のラブソング
5.ありがとうの唄
6.素晴らしい旅