思い出せるのはそうだなぁ、君が買ってきたケーキかなぁ。

 2018年5月9日に“ほのかりん”が1st Full Album『LOVE ME TENDER』をリリース。今作には本人作詞の全10曲が収録されているのですが、全ての歌詞に必ず<愛>というワードが綴られているんです。愛してる。愛されたい。愛しきれなかった…。さて、今日のうたコラムではその中からリード曲「夢裡」をご紹介いたします!

思い出せるのはそうだなぁ、
君が買ってきたケーキかなぁ
甘いのは二人で苦手ね
好きだったとこはそうだなぁ、
君の四角い笑顔かなぁ
迷いもなく溢した幸せ

約束してたのに
「夢裡」/ほのかりん

 この歌で描かれているのは<愛してた>という【愛】の形です。つまりもう何もかもが、自分の中では過去形になっているということ。ゆえに、歌の冒頭では<君が買ってきたケーキ>や<君の四角い笑顔>などが、すでに過ぎ去った幸せとして描かれております。それは、二人の<約束>も然り。

ベイビーみたいな寝顔と狭すぎた木造四畳半
愛してた愛していた
「裏切った私を忘れてね」と、
置き手紙を書いてる途中で
「いつか結婚」君は夢裡の中
「夢裡」/ほのかりん

 しかし、二人の関係そのものはまだ過去になっていない模様。まさに今<私>は、狭い木造四畳半のスペースで眠っている<君>の<ベイビーみたいな寝顔>を見つめつつ、サヨナラの手紙を書いてる途中なのです。心の中で<愛してた愛していた>と想いを噛みしめながら。

 また、フレーズには「裏切った私を忘れてね」とあるため、サヨナラの原因はきっと<私>側にあるのでしょう。他の人に心が揺らいだのかもしれませんし、単に愛が冷めたのかもしれませんし、この愛を信じ切れなかったのかもしれません。いずれにせよ「いつか結婚」という<約束>を自らの意志で断ち切ったのです。

寒い日は何時も恨んだなぁ、
コートのポッケが狭い事
ふたつ分絡めた幸せ
好きだったとこは何処かなぁ、
私は我儘ばかりでさ
下手くそに守った嘘
「夢裡」/ほのかりん

 ただし、歌詞を読めば読むほど、伝わってくるのは幸せな思い出ばかり。相手に対する不満や不安はひとつも綴られておりません。さらに<コートのポッケ>という“衣”、先ほどの<君が買ってきたケーキ>という“食”、そして<狭すぎた木造四畳半>という“住”。衣食住に<君>との記憶が刻まれているんですよね。そんな<私>の【愛】は本当にもう<愛してた>という過去形なのでしょうか…。

この雪が積もる様に私なんか忘れるわ
愛していた証に指輪を置いていくわ

ベイビーみたいな寝顔と狭すぎた木造四畳半
愛してた愛していたのに
裏切った私はもういないの、
強がりを言っている手前で
「いつか結婚」君と夢裡の中

「いつか結婚」君は夢裡の中
「夢裡」/ほのかりん

 おそらくそうではありません。本当は今だって愛してる。でも<裏切った私>は<君>のそばにいる資格はないとも思う。だからこそ<愛していた証に指輪を置いていく>のではないでしょうか。忘れてほしくない、という本音。もう忘れなきゃ、という強がり。その葛藤が<指輪を置いていく>という行為に表れているように感じます。

 尚、タイトルの「夢裡」は【夢の裡(うち)】という意味で【むり】と読みます。今、彼女がサヨナラの<置き手紙を書いてる>とは知らず<君>はまだ「いつか結婚」という夢のなか。一方で<私>もまだ気持ちを完全に過去形にすることなどできず、同じく「いつか結婚」という夢を見てしまっているのでしょう。

 しかし、実際に曲を聴いてみると<夢裡>というワードは“無理”という意味に変換されて聴こえてくるんです。そう考えると「いつか結婚」とは、もう“無理”な夢なのだ、という現実が描かれているかのようで、いっそう切ない…。そんな想像も膨らむのが、ほのかりん「夢裡」の魅力です。是非、様々な物語をアルバムの全10曲で楽しんでみてください…!

◆1st Full Album『LOVE ME TENDER』
2018年5月9日発売
FLCF-4513 ¥2,400(tax in)

<収録曲>
1.愛別れ
2.メロンソーダ
3.ピローケース
4.Envy
5.夢裡
6.夏好きの君
7.メトロ
8.愛
9.ふわふわ
10.東京