久しぶりだったから僕は無理矢理、明るい声で話に乗っかった。

読みさしのまま返された本からは
あなたの匂い 油断していた
(伴風花)

 こちらは、歌人・伴風花さんの短歌。途中で読むのをやめた本を返された、ということはおそらく、その本のラストへたどり着く前に、恋人同士の主人公と<あなた>が別れてしまったのではないでしょうか。それまで主人公は、少しずつ失恋から立ち直りつつあったのかもしれません。しかし、もう大丈夫だと<油断していた>ら、貸していた本からの<あなたの匂い>により、不意打ちで記憶が甦ってしまった…。

 失恋から完全に立ち直るのは、難しいことですよね。ちょっとした日常に刻まれた<あなた>の名残によって、寂しさや恋しさや哀しみが再発して、心の回復がまた遅れてしまったり…。では、私たちは失恋を大体、どのくらいの期間で吹っ切ることができるのでしょうか。どれくらい引きずってしまうものなのでしょうか。今日のうたコラムでは、いろんな失恋ソングに注目してみました。まずドリカムには次のような楽曲がございます。

うわ!こんな毎日電話してたんだ!数字で見るとすごい
もう4ヶ月も前の明細が今になって出てきた
恋に掛かった 値段表に見える!

終わって初めてなんか笑えた
3分置き リダイアルしてた
思い出すたびにさびしかった
今日は…でも少し違う!
「思い出の神様」/DREAMS COME TRUE

 ここでも<読みさしのまま返された本>のように、あるアイテムが思い出スイッチになっておりますね。それが<4ヶ月も前の>電話料金の<明細>です。つまり二人が別れたのはここ4ヶ月以内のこと。しかも少なくとも4ヶ月前には<こんな毎日電話してたんだ!>というほどのラブラブな関係だったのです。ただし、冒頭の短歌とは異なり、この歌の主人公は<明細>を発見したことにより<終わって初めてなんか笑えた>のです。日常に<あなた>の名残を見つけても“さびしさ”が生まれなかったことに気づいたからこそ、自分がもう大丈夫だと実感できたのでしょう。

 さて、このようにDREAMS COME TRUE「思い出の神様」の主人公は、別れてから少なくとも4ヶ月以内には、失恋の悲しみ苦しみから解放されておりますが、様々な恋愛サイトを調べてみると、人別れてから完全に立ち上がるまでに平均【3ヶ月】の期間を要するんだそうです(もちろん個人差はあります)。それゆえに、まだ空しさ、未練、寂しさが伝わってくるような失恋ソングは別れてから“3ヶ月”前後の心情を歌っているものが多いように思われます。

お元気ですか? 何をしてますか?
気がつけば2ヶ月がもう過ぎました
いつも同じ曲が流れてた
君の部屋 君のそばがとても好きでした
「Dearest Whiteberry」/Whiteberry

あの娘が出て行ったのは もう3ヵ月前
淡い想い出だけを ほのかに残して
涙もない 言葉もでない あっけない結末
あれほど燃え上がってた二人が嘘みたい
「雨のち晴れ」/Mr.Children

5ヶ月ぶりに君から電話
久しぶりだったから僕は無理矢理
明るい声で話に乗っかった

僕と君との思い出の場所
知らない誰かが上書きをした
そんな話なら聞きたくなかったな
「上書き保存ガール」/空想委員会
 
 でも、恋愛において引きずる期間が長いのは、女性よりも男性の方が多いとはよく聞きますよね。たとえば空想委員会「上書き保存ガール」なんてまさにそれが表れております。【3ヶ月】が過ぎ、5ヶ月ぶりの<君>はもうとっくに新しい恋をして、前に進んでいるのに対し<僕>はまだまだ失恋の切なさの中。サビには<そうして君は簡単に 僕との思い出を上書きしていくんだね>というフレーズも綴られているのですが、そこからは“忘れないで”という本音がひしひしと伝わってくるのです…。

君が離れない 別れもう一年
運命ならばまた逢えるはず
握りしめた手の中 光るリング
「大好きだったキミへ feat.Lil'B」/クリフエッジ

毎晩聴いていたトムヨークの声が懐かしいな
明後日の一年前は最後に話した日だよね

泣きそうだ
「she」/indigo la End

君から離れて1年間そして2年経って
君がいない日常にもいい加減慣れてはきたけれど
嬉しいワケではないから また
僕歳を重ねて この先に 好きな人できても
言えないけどきっと 輝いた セピアの思い出と
比べてしまいそうなんだ
「君ノ面影」/遊助

 やはり、男性アーティストの失恋ソングは“年単位”のものも比較的、多く存在するようです。恋愛論の【男は「名前を付けて保存」女は「上書き保存」】というものも、この引きずり期間の違いが関係しているのかもしれませんね。さらに、女性は気持ちさえ吹っ切れてしまえば、別れてからの時間をもはや“あなたと離れてからの期間”とは考えなくなっていく方が多いのではないでしょうか。

彼ナイ歴もかれこれ2年と3ヶ月
恋人単位の世の中で 強くたくましく生きている
スキーもディスコも湘南も 最近御無沙汰よ
ヴァレンタインもクリスマスも肩身のせまい思いしてる
「Good Luck!」/広瀬香美

1年2ヶ月ぶり
ときめいてます バンザ~イ
「Help me II」/岡本真夜

 そうです、一定の期間を過ぎればもう“あなたと離れてからの期間”→“彼氏いない歴”に変わるのです。だから、もしかしたら彼が1年も2年も<君がいない日常>に想いを馳せているその時、彼女の方は<彼ナイ歴>をこれ以上更新しないよう、新しい恋愛を貪欲に探したり、久々のときめきに<バンザ~イ>としていたり、という可能性も高いですね…。あなたなら、どれくらいの期間で失恋の傷が回復しますか?これまで、どんなときに“もう大丈夫”だと、実感することができましたか? そんなことも考えながら楽曲を聴いてみると、歌詞の面白さがより一層増すかもしれません…!