人を疑えない馬鹿じゃない、信じられる心があるだけ。

さあ出かけよう 砂漠を抜けて
悲しいこともあるだろうけど
虹の根元を探しにいこう
「かいじゅうのマーチ」/米津玄師


 2017年11月1日に“米津玄師”がアルバム『BOOTLEG』をリリース!今作の収録曲はいずれも歌ネットで大人気です。歌詞公開直後から、各楽曲へアクセスが殺到し、デイリーランキングトップ20の内、10曲を彼の楽曲が占めておりました。今日のうたコラムではその中から「かいじゅうのマーチ」という新曲をご紹介いたします。まず、冒頭でご紹介したフレーズから、みなさん懐かしのあの曲を思い出しませんか…?

海が見たい 人を愛したい 怪獣にも心はあるのさ
出かけよう 砂漠捨てて 愛と海のあるところ
「怪獣のバラード」/合唱

 小中学生くらいの頃、学校で歌ったことがある方、多いのではないでしょうか。この歌の主人公は、大きな怪獣。まっかな太陽が沈む砂漠でのんびり暮らしていた彼ですが、ある朝をきっかけに【海が見たい 人を愛したい】という想いが溢れ出し、今いる場所を飛び出す決意をします。そして、自分の足跡に両手を振りながら、朝昼夜と東へ歩いてゆく姿が描かれているんです。

 米津玄師の「かいじゅうのマーチ」はタイトルと歌詞の内容から、おそらくこの「怪獣のバラード」をオマージュした“続編”のような楽曲であることがわかります。「怪獣のバラード」はラスト【新しい太陽は燃える 愛と海のあるところ】というフレーズで幕を閉じる楽曲です。では、砂漠を捨てて新しい場所へと向かった怪獣は、その後どのように生きているのでしょうか…。

少しでもあなたに伝えたくて
言葉を覚えたんだ
喜んでくれるのかな そうだと嬉しいな

遠くからあなたに出会うため
生まれてきたんだぜ
道草もせず 一本の道を踏みしめて

怖がらないで 僕と歌って
そのまま超えて 海の向こうへ
おかしな声で 愛と歌って
心は晴れやか
「かいじゅうのマーチ」/米津玄師


 怪獣は、延々と砂漠を歩んでゆく途中で、かけがえのない<あなた>に出逢ったのです。少しでも想いを伝えたいから言葉を覚え、<あなたに出会うため 生まれてきたんだぜ>とまで思えるほどに大切な人。つまり【人を愛したい】という望みが叶ったのでしょう。さらに、<喜んでくれるのかな そうだと嬉しいな>と期待や不安を抱いたり、<怖がらないで>と相手を思いやったりする姿からは【怪獣にも心はあるのさ】と言っていたあの頃よりずっと、心が育っていることも伝わってきますね。

 ちなみに「怪獣のバラード」では、どんな人称も綴られておりませんでした。しかし「かいじゅうのマーチ」では、他者という存在ができたことで<僕>や<あなた>というワードが登場しているのではないでしょうか。そして、そのように成長した怪獣の<僕>は、ここから<あなた>と共に行きたい、生きたいという強い意志を抱いているのです。多分、砂漠の途中にいる<あなた>の心にも、あの頃の怪獣と同じく“変わりたい”という想いがあるような気がします。でも、なかなか一歩が踏み出せない。だからこそ、この歌があるのです。

今あなたと出会えて ああほんとによかったな
胸に残る一番星 寂しいのに眩しいのに

さあ出かけよう 砂漠を抜けて
悲しいこともあるだろうけど
虹の根元を探しにいこう

人を疑えない馬鹿じゃない
信じられる心があるだけ
あなたのとなりで眠りたい
また目覚めた朝に あなたと同じ
夢を見てますように
「かいじゅうのマーチ」/米津玄師

 <僕>は、冒険の不安をよく知っているはずです。旅の途中で<人を疑えない馬鹿じゃない>と思い知るような出来事もあったでしょうし、<胸に残る一番星>=(思い出)を寂しく眩しく感じるときもある。それでも<今あなたと出会えて ああほんとによかったな>という思う気持ち、<信じられる心>が何よりも強いのです。それゆえに、あの頃は【出かけよう 砂漠捨てて】と綴られていた言葉が、今は<出かけよう 砂漠を抜けて>というフレーズに変わっているのだと思います。捨てる、よりも、抜ける、の方がずっと開放的で希望的ですよね…!その愛のパワーを<僕>は今、歌で伝えようとしているのではないでしょうか。

 また、かつて【海が見たい】と望んでいた怪獣ですが、今は<そのまま超えて 海の向こうへ>とさらに先を見つめているところも印象的です。人を愛したからこそより一層、将来が、世界が、広く広くなってゆくんですね。そして、大切な人のとなりで眠り、目覚めた朝には、また【新しい太陽】が東の方に燃えていることでしょう。感傷的な“バラード”から、堂々と歩いてゆく“マーチ”に変わった怪獣の想いを是非、この歌から受け取ってみてください!

◆紹介曲「かいじゅうのマーチ
作詞:米津玄師
作曲:米津玄師

◆New Album『BOOTLEG』
2017年11月1日発売
ブート盤(初回限定) SRCL-9567~9568 ¥4,500+税
映像盤(初回限定) SRCL-9569~9570 ¥3,700+税
通常盤 SRCL-9571 ¥3,000+税