工藤静香

時計の針を巻き戻そうと、手を伸ばしたから指を切った…。

 今年ソロデビュー30周年の“工藤静香”が、アニバーサリーイヤーを記念した完全オリジナルアルバム『凛』を2017年8月30日にリリースしました。尚、オリジナルアルバムは前作『月影』からなんと12年ぶり!そして今作には、本人が「援してきてくれた人たちへの感謝の気持ちを示すためにも、全てゼロから作った曲で構成したかった」と語るとおり、アルバムのために書き下ろされた新曲のみが収録されております。さて、今日のうたコラムではそのなかから“吉田山田”を手がけたラブソングをご紹介…!

時計の針を巻き戻そうと
手を伸ばしたから指を切った
ガラクタのようで宝物だった
さよならも言えずになくした恋

諦め方を知らず 産まれてきたはずなのに
「仕方がない」と唱えるこの臆病者
「針」/工藤静香

 冒頭のたった数行から、この恋のさまざまな背景や感情が想像できますね。まず、失恋した主人公は今、未練のなかで揺れております。心のどこかで疼いている「ヨリを戻したい」気持ちが<時計の針を巻き戻そうと 手を伸ばした>というフレーズに含まれているのでしょう。でもその結果<指を切った>のです。復縁を相手に拒絶されたのかもしれませんし、過去になんて戻れないことを独り思い知ったゆえの痛みなのかもしれません。

 また、主人公は、いつも何かがちょっと間に合わないような人生を送ってきたのではないでしょうか。一緒に過ごしていた時間は<ガラクタのようで宝物だった>ことに気がつくのも、さよならの前兆を感じ取るのも、少し遅かったのです。きっと「さよなら」に限らず、いろんな言葉を“あなた”に伝え損ねてきたのだと思います。そして、そのたびに<「仕方がない」と唱えるこの臆病者>と、自己嫌悪に陥っていたのでしょう。

溶けた氷と濡れた掌
海の何処かへと消えた花火
時計の針の音に合わせて
なくした物だけ数える恋

昨日の事のように 今も痛むこの胸は
幼すぎたあの季節の落とし物
「針」/工藤静香

 このフレーズの冒頭に綴られている景色は、ある夏の二人の思い出でしょうか。彼女の指を切った<時計の針>は今、無情にも“あなた”のいない時間だけをどんどん刻んでゆきます。そのなかで主人公は、氷が溶けてなくなるように、花火が咲いて海の何処かへと消えるように、<さよならも言えずに>なくなってしまった恋の思い出を数えているのですね…。ただ、どうしたって<もう二度とあの日は戻らない>し、想いは届くことはありません。それは彼女もわかっております。

笑った事も 泣いた事も
幸せでしたと伝えたいな
人通りの多い街は
あなたによく似た影ばかりで
振り向く度 また夢が終わる

届かなくても 届かなくても
届かなくても ちゃんと言いたいな
届かないまま 届かないまま
もう二度とあの日は戻らない
目を開ければ 今夏が終わる
「針」/工藤静香

 だからこそ「せめてこの歌にだけでも…」というように、サビへ“間に合わなかった言葉”が閉じ込められているのです。恋は失ってしまったけど<笑った事も 泣いた事も 幸せで>不幸だったことなんて何一つない。あなたを好きになってよかった。さよなら。…歌詞には綴られていなくとも、そんな想いがひしひしと伝わってきます。そうして、自分の心とちゃんと向き合って、あの夏の夢から覚めて<目を開ければ>やっと、少しずつ前に進んでゆけるのでしょう。

 「針」は、そんな切なく寂しくも、人を愛しつくした思いに満ちたラブソングです。夏と秋の狭間のような今の季節にもピッタリな1曲となっておりますので、是非、歌詞をじっくり読みながら聴いてみてください。

◆オリジナルアルバム「凛」
2017年8月30日発売
初回盤(CD+2DVD) PCCA-04557 / ¥4,630(本体)+税
通常盤(CD Only)PCCA-04558 / ¥2,315(本体)+税

<収録曲>
1 鋼の森
2 かすみ草
3 蜜と棘
4 Junk
5 ほとり
6 禁忌と月明かり
7 針
8 どうせなら
9 Time after time
アルバム収録曲には、玉置浩二、松本孝弘、松井五郎、伊集院静、岸谷香、まふまふ、吉田山田らが参加!
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