怖い、人間が、人生が、そっと怖い怖い。

怖い 想像が 夢たちが
今日も怖い 怖い 怖い
「怖い」/熊木杏里

 歌詞に<怖い>というワードが合計14回も登場するこの曲…。デビュー15周年のシンガーソングライター・熊木杏里が2017年6月28日にリリースした10作目のオリジナルアルバム『群青の日々』の入口となっている楽曲です。みなさんが怖いと思うものはありますか? また、どうしてそれを怖いと思うのでしょうか…。今日のうたコラムでは、そんなことを考えさせられる「怖い」をご紹介いたします。

朝が怖いんだ 夜が好きなんだ
目覚めて自分を探すのが めんどくさい

世界は平和かな テレビが泣きそう
目をふさいでも 聞こえてくるのが悲報

どんな日でも子供は育ち
私は確かに老いていくんだ
「怖い」/熊木杏里

 まず、わたしたちから<怖い>が生まれる理由は“今”には、ないような気がします。嬉しいや哀しいという感情ならリアルタイムな出来事に対して生まれますよね。しかし<怖い>は、これから何か悪いことが起こるかもしれない、何かされるかもしれない“未来”に対するものではないでしょうか。もし“過去”にトラウマがあったとしても、それは「これから同じことが生じるかも…」という、やはり未来への怖さなのです。“どうなるかわからない”からこその恐怖とも言えそうですね。

 そして「怖い」の主人公もまた“わからない未来”が怖いのだと思います。探さなければいけない自分、把握しきれない世界、他人事じゃなくなるかもしれない悲報、そして何より怖れているのが<老いていく>こと…。歌詞には<流れるのは時間だけじゃない 私は確かに生きているんだ>、<儚いのは夏の花火と 追われることない 若さだけなの>というフレーズも綴られています。おそらく“私”にとって<老いていく>のは、“わからない未来”=“怖いもの”に近づいていくこと、なのでしょう。

怖い 人間が 人生が
そっと 怖い 怖い

怖い 真実が 現実が
全部 怖い 怖い
「怖い」/熊木杏里

 だから人間が、人生が、真実が、現実が、怖い。ただ、歌詞には<めんどくさい>という言葉も2回ほど登場するんです。……実は、この主人公が言う<怖い>はすべて<めんどくさい>と言い換えることができるのかもしれません。たとえば、他人から悪口を言われるのが怖い、と思っている場合、それはその人間と向き合うのがめんどうくさいからではないでしょうか。つまり“わからない未来”が怖いのではなく、いつか真実や現実と向き合うのがめんどくさいのです。そう考えると、一番<怖い>のはこの<めんどくさい>という感情そのものであるようにも思えてきますね…。

鍋底に沈んでいる
隠れたスパイスは言えないの
刻んだ涙は 誰のせい?

幸せの顔をした
とびきり辛いカレーライス
罪と罰 よそわれて
食卓へ運ばれていくの
「カレーライス」/熊木杏里

 尚、「怖い」の次に収録されている「カレーライス」という曲もだいぶ“怖い”のですが、この曲にも人間と向き合うことに対する<めんどくさい>という感情が根本にあるような気がしてきます。是非、併せて歌詞をチェックしてみてください。みなさんが怖いと思うものはありますか? 実はそれは、<めんどくさい>と思うものではありませんか?

◆ニューアルバム『群青の日々』
2017年6月28日発売
YCCW-10306 ¥2,750 + 税

<収録曲>
1 怖い
2 カレーライス
3 僕たちのカイト
4 蛍
5 しにがみてがみ
6 花火
7 fighter
8 雨宿り
9 国
10 群青の日々