先に呆けてしまえば、寂しくないかな。

 “岡崎体育”が2017年6月14日に2nd Album『XXL』をリリース!収録曲からはダブルリード曲「感情のピクセル」と「Natural Lips」、そして「式」のMVが公開されております。「感情のピクセル」は、MV公開からわずか一週間で200万回再生を突破。さらに「Natural Lips」も公開2日で100万回再生を記録という人気っぷり。どちらもインパクト強烈なおもしろ楽曲だったので、「式」もそのような歌詞を予想した方が多かったのではないでしょうか。しかし、油断してMVを観たら涙…。岡崎体育が第三弾として繰り出したのは、完成までに2年を要したというピアノ弾き語りの力作なのです。今日のうたコラムではそんな名曲をご紹介いたします。

相槌もでたらめ 鈍色の朝 わがままに
迷惑かけたいわけじゃないのに

保育園で汚い言葉を覚えて帰ってくるように
色んな色の絵具を脳みそに塗っていくみたいだ

鉄棒の香り冷たく 美しい名前は遠く
薄暮れに木霊して 約束を破って
ひとり洟垂る僕を叱って
「式」/岡崎体育

 この歌から見えてくるのは、とある老夫婦の姿です。まず1番で歌われているのは“僕(夫)”側の気持ち。彼は人間の自然な法則に沿って、どんどんいろんな体の機能が衰えてゆきます。耳が遠くなるから<相槌もでたらめ>になり、頭の中は<色んな色の絵具を脳みそに塗っていくみたい>にボンヤリ。<保育園で汚い言葉を覚えて帰ってくる>のが人としての“足し算”という式だとすると、年を取った今はできないことが多くなってゆく“引き算”な毎日なのかもしれません。では、一方の奥さんはどうでしょうか。

相槌もでたらめ 柿色の夕 わがままに
迷惑かけたいわけじゃないのに

年老う指輪は弛み 填めなおしてはまた弛み
瞳に黴が生えても 言葉に血の通った話がしたい

先に呆けてしまえば 寂しくないかな
飯を口から零して テイブルを汚して
にたついてる私を赦さないで
「式」/岡崎体育

 2番で歌われているのが“私(妻)”側の気持ち。彼女もまた失われてゆくものがあるのです。指輪を<填めなおしてはまた弛み>という様子からは、日に日に痩せてゆく身体が伝わってきます。そして<瞳に黴が生えて>ゆくようにボヤけてゆく視力。夫婦ともに“引き算”な毎日であるところは同じなのでしょう。ただ、そんな日々のなかでも、それぞれまだ確かなものがあります。それが相手を思う“心”です。

 “僕”は奥さんに対して<迷惑かけたいわけじゃない>、<ひとり洟垂る僕を叱って>という思いを抱いております。また“私”も同じく夫さんに<迷惑かけたいわけじゃない>、<にたついてる私を赦さないで>と思っているのです。自分の身体がこれからもっと衰えて、呆けてしまうかもしれないことは苦しいですよね。何より、大切な相手を苦しませてしまうかもしれないことが苦しい。しかし<先に呆けてしまえば 寂しくないかな>というフレーズも、刺さります。

「待つ身が辛いかね、待たせる身が辛いかね。」

 太宰治が放ったというそんな言葉がありますが、この曲の老夫婦にとって「自分が呆けてしまうのが辛いかね、相手が呆けてしまうのが辛いかね。」と言い換えることもできそうです。そしてその辛さは、何十年も一緒に生きてきた人への愛に比例するものなのだと思います。そう考えると、「式」が描いているのは、人間の“引き算”ではなく“足し算”なのかもしれませんね。つまり、1番では夫さんの愛、2番では奥さんの愛が綴られており、それぞれが足されて、ラストの答えにたどり着くのではないでしょうか。

相槌もでたらめ 雪色の夜 どうして
迷惑かけても笑ってるの
「式」/岡崎体育

 こうして幕を閉じる歌。最後のこのフレーズは、二人の共通の気持ちでしょう。きっと、お互いに思い合っているからこそ相手が<迷惑かけても笑ってる>のです。補い合って生きてゆくのです。たしかに、年齢を重ねると身体の機能は“引き算”な毎日になりますが、魂や愛情は“足し算”なのかもしれない…。岡崎体育の「式」にはそんなことを考えさせられます。ちなみに、「式」というタイトルに関しては、曲を聴いた方々から「四季」や「死期」や「色」ともかけられているのではないか、という意見も挙がっております。みなさんはこのタイトルにどんな意味が込められていると思いますか…?

◆2nd Album『XXL』
2017年6月14日発売
初回生産限定盤 ¥3,500(税込)
通常盤 ¥2,800(税込)

<収録曲>
01. XXL
02. 感情のピクセル
03. Natural Lips
04. Horoscope
05. まわせPDCAサイクル
06. 電車で聴くと映画の主人公になれる曲 (Interlude)
07. Open
08. 観察日記
09. Snack
10. 鴨川等間隔
11. 式