なんとなく吸う息の根を止めて、今日でおわりにしよう。

どうにかなる。
どうにかなろうと一日一日を迎えて
そのまま送っていって暮らしているのであるが、
それでも、なんとしても、
どうにもならなくなってしまう場合がある。
(太宰治「玩具」より引用)

 恋、夢、勉強、仕事などなど、ちょっとつまずいたくらいじゃ立ち止まっていられないからと、なんとか前に進み続けている時ってありますよね。でも、本当に“それでも、なんとしても、どうにもならなくなってしまう場合”もあるんですよねぇ…。そんな時、みなさんならスランプをどう乗り切りますか? 今日のうたコラムではそのヒントになりそうな新曲をご紹介いたします。女性ラップシンガー“DAOKO”が4月15日に配信リリースしたシングル「拝啓グッバイさようなら」です。

大丈夫大丈夫
いつもの呪文唱えて
大渋滞大渋滞
言葉と心が正反対
デフォルト
絵の具の端から端まで
混ぜ合わせたカラー
のボクだから
「拝啓グッバイさようなら」/DAOKO

 この歌の主人公もまた<大丈夫大丈夫 いつもの呪文唱えて>、どうにかなる、どうにかなろうと暮らしていたのでしょう。しかし、どんなに言葉で自分に言い聞かせても、次々と現実的な問題が山積みになると<大渋滞大渋滞>でどうにもならなくなってしまうのです。また、絵の具は全ての色を合わせると“黒”になるんだそうです。だからそのカラーが<ボク>だというフレーズは、心の中の闇や、お先真っ暗に感じている未来を表しているのかもしれません。

壊れそうで
壊れやしない
溢れそうで
溢れもしない
半端モンのボクだから
大したものにはなれないや
おまじない ただのおまじない
助けてくれるなんておおまちがい
おまじない ただのおまじない
縋っていたんだ
「拝啓グッバイさようなら」/DAOKO
 
 とはいえ心の中が<大渋滞>になっても、日常は淡々と進んでいきます。誰も気づいてはくれません。だったら、そんな日々をストップさせるため、一度壊れて倒れたり、涙が溢れて止まらないくらいに人前で泣きわめいたり出来た方が、ずっと楽なのかもしれません。でもそれもできないから<半端モンのボク>は“大丈夫”というおまじないにすがっているんですね。
 
 実際に「大丈夫、大丈夫」と言い続けていると言霊の効果があり、状況が回復してくるという説もよく聞きます。ただ、ギリギリ状態の主人公にとってはもう<助けてくれるなんておおまちがい>でしかない言葉…。では、この全然大丈夫ではない現状の自分から変わるためにはどうすればよいのでしょうか。この歌の場合、壊れられない主人公は、自ら“壊す”という道を選んだのです。歌詞のラストは次のように綴られております。

今日でおわりにしよう
なんとなく生きてきた昨日まで
今日でおわりにしよう
なんとなく吸う息の根を止めて
今日でおわりにしよう
なんとなく生きてきた昨日まで
今日でおわりにしよう
なんとなく吐く息の根を止めて

拝啓グッバイさようなら
昨日のボクは殺した
拝啓 グッバイさようなら
あたらしい朝がくる
拝啓グッバイさようなら
昨日のボクは彼方へ
拝啓 グッバイさようなら
あたらしい朝とボク
ここにいるよ
「拝啓グッバイさようなら」/DAOKO

 これはもちろん“自殺”という意味ではありません。<なんとなく生きてきた昨日>に、<なんとなく吸う息>に、<昨日のボク>にさようならをしたのです。あたらしい自分に変わるための“決意”です。その変化の方法は人それぞれでしょうが、気持ちの在り方を意識するだけでも毎日はグッと変わるのではないでしょうか。また<グッバイさようなら>の前に“拝啓”という言葉を使っているのも印象的です。これまでの自分を嫌うのではなく、なんとか生きてきた日々にも自ら敬意を示した上で、別れを告げているように感じますよね。

 今、“それでも、なんとしても、どうにもならなくなってしまう場合”に陥っている方に是非、聴いていただきたい「拝啓グッバイさようなら」。尚、MVはとある写真撮影の1日を舞台に展開されていく映像作品。恋愛をテーマにしつつも、内面の葛藤を表現した妖艶な映像となっており、プライベートから非日常へ、これまでにないDAOKO を感じられますので、こちらも必見です!