「ありがとう」は余白にいろんな気持ちを含むことが多い言葉…?

“ありがとう”って伝えたくて 
あなたを見つめるけど
繋がれた右手が まっすぐな想いを 
不器用に伝えている
「ありがとう」/いきものがかり

 “3月9日”はいろんなところでレミオロメンのあの名曲が聴かれたことでしょう。歌詞アクセスもここ数日でグーンと上昇し、3月9日当日のデイリーでは7位を記録!ただこの日は、【3(サン)9(キュー)】(Thank you)の語呂合わせから『3.9デイ(ありがとうを届ける日)』でもあったのです。日頃の感謝を改めて伝え合おうという日。そこでうたコラムでは、数々の“ありがとうソング”に注目してみました!ちなみに冒頭でご紹介した、いきものがかり「ありがとう」は、タイトルに“ありがとう”がつく曲で最も歌詞人気が高いミリオンリリックです。では、みなさんは、どんなときに“ありがとう”を伝えたいと思いますか?

“あいしてる”って伝えたくて
あなたに伝えたくて
かけがえのない手を あなたとのこれからを
わたしは 信じているから
「ありがとう」/いきものがかり

 以前、ドラマ『カルテット』で次のようなセリフがありました。「言葉と気持ちは違うの」。…言葉には“行間”というものがあり、そこには伝えた言葉以上のなんらかの気持ちが込められていることがあるということ。実は“ありがとう”も、行間(余白)に感謝以外のさまざまな気持ちを含むことが多い言葉なんです。たとえば、いきものがかりの楽曲でも、最後のサビでは伝えたかった“ありがとう”が“あいしてる”に通じています。“あいしてる”や“好き”とは言えないけれど、代わりにその思いを“ありがとう”に込めたことがあるという方、少なくないのではないでしょうか。

Happy Birthday!
ずっとずっと一緒に祝ってゆこう このキミ記念日
1/365 主役は大好きな君
生まれて来てくれてアリガトウ!
「キミ記念日〜生まれて来てくれてアリガトウ。〜」/ソナーポケット

 さらにソナポケのこの曲の場合ですと、“アリガトウ”で“おめでとう”を伝えています。また、おそらく先ほどのいきものがかりと同じく<大好きな君>への“あいしてる”も含まれていることがわかりますね。“ありがとう”は、たった5文字で、同時にいろんな愛を届けることができる素敵な言葉なんだなぁ…と改めて思います。ただし、素敵な言葉だからこそズルイ使い方もできるんです。

恋文に託されたサヨナラに 気づかなかった私
「アリガトウ」っていう意味が
「これっきり」っていう意味だと
最後まで気が付かなかった
「恋文」/中島みゆき

 誰だって、できれば別れ際は綺麗に終わりたいものですよね。最後の記憶を嫌なものにはしたくないし、自分が悪者にもなりたくない。そんなときに使うのが“アリガトウ”です。サヨナラの代わりにこの言葉を言えば、一見、ラストシーンはとても美しく見えます。しかし残酷な言葉でもありますよね。中島みゆきの「恋文」の場合、<私>はずっと言葉の“行間”に<気づかなかった>ため、ちゃんとした最後を迎えることができなかったのですから。かなり一方的な別れです。

さよならが喉の奥につっかえてしまって
咳をするみたいにありがとうって言ったの
次の言葉はどこかとポケットを探しても
見つかるのはあなたを好きな私だけ
「ハッピーエンド」/back number

ありがとう 好きになってくれて
ありがとう 抱きしめてくれて
ありがとう いつでも守ってくれて
ありがとう ありがとう 伝えきれないほど
「君と100回目の恋(movie ver.)」/葵海 starring miwa

 とはいえ、なんらかの理由で好きだけど別れなきゃならない場合、“さよなら”の代わりにまずなんとか口にできるのが“ありがとう”しかない、という気持ちもわかります…。この“ありがとう”の行間には、本当はもっともっと伝えたいけど、伝えきれないたくさんの気持ちが込められています。たかが5文字、されど5文字です。そしてその“ありがとう”にありったけの思いを込めたからこそ、back numberの歌もmiwaの歌も、最後の最後でやっと“ありがとう”を“さよなら”に変えることができたのです。

今すぐに抱きしめて
私がいれば何もいらないと
そう言ってもう離さないで
なんてね 嘘だよ さよなら
「ハッピーエンド」/back number

さよなら 大きな君の手
さよなら 2人見た夕日
さよなら 名前呼ぶ愛しい声
さよなら さよなら 巡り会えてよかった
100回繰り返しても叫んでもそれでも足りない
「君と100回目の恋(movie ver.)」/葵海 starring miwa

 これは余談ですが、前述したドラマ『カルテット』では「好きじゃない人から告白されたとき」に返せる唯一の言葉が“ありがとう”なんだというやりとりもありました。さらに、歌人・俵万智さんの作品にも<それ以上 近づけないけど 傷つかない 「ありがとう」とは 便利なことば>というものがございます。あまりに日常的で、歌の中にも何度も登場する“ありがとう”ですが、その意味を見つめなおしてみると、非常に複雑であることがわかります…。と、なんだか暗くなってしまいましたが、純粋に本来の“感謝”の意味の“ありがとう”は、特別な日ではなくてもたくさん伝えていきたいですね!