最近、「頑張ったって意味がない」が口癖になっていませんか…?

「俺的に美人」なんて 
さっきから聞いてりゃ君 ナイわ
薄っぺらな恋愛観 ビールが不味くなるの

ほら そんなんじゃないなんて
愛嬌ふりまいて 情けなくないNo No No?
凹んだフリして 時計見て 蹴り飛ばしたいわ

グラス置いて アタシを見て
逃げるのはもうやめなよ 今夜から

「返事がない!」
『タチアガレ』/シシド・カフカ

 “シシド・カフカ”が2月22日にコンセプトアルバム『DO_S』(読み:ドゥーエス)をリリース。今作に収録されている全6曲には<若者への応援ソング>というテーマがあります。シシド・カフカは、このアルバムについて「とあるバーのバーテンダー、あるひとりの男の子と出会い、色々な想いを巡らせる一枚です。『マザー的な、テレサ的な愛だよ、愛。』ここまでコンセプチュアルなアルバムは初めてです」と語っておりました。今日のうたコラムでは、アルバム1枚でひと繋がりにも感じる“物語”に注目してみます。

 まず、このアルバムの入口となるのは、冒頭でご紹介した「タチアガレ」という楽曲。<アタシ>が“とあるバーのバーテンダー”で、お客さんの男の子と話しているのでしょうか。それとも、バーに呑みに来て“とあるバーのバーテンダーの男の子”と話しているのでしょうか。どちらにせよ彼女は、その男性の<君>の恋愛観や、悟りきったフリして「頑張ったって意味がない」なんて言っている様子にイラッとし、激しく喝を入れております。

なに? この女
急に 怒りだして
どこかで見た記憶があるような
ほら あの前髪 ドラム叩く人
ムカつくのに なぜ心揺れてる?
もう触れないで 僕の痛いとこ
うるさい 知ってる うるさい 黙って
「僕が僕であるということ」/シシド・カフカ

 そして2曲目に続くのが、この曲。さきほど<アタシ>に叱咤されていた男性だと思われます。あることないこと怒られ<ムカつくのに>、<心揺れてる>のは“本当は変わりたい気持ち”があるからですよね。歌詞の途中まで、彼は<うるさい 知ってる うるさい 黙って>、<だって血が違う 環境が違う ほっといてくれ 聞かないでくれ>と言い訳で耳を塞いで、完全にシャットアウトしようとしています。しかし、強気な彼女に土足で心へ踏み込まれたことで、歌の終盤では変化の兆しが見えてくるのです。

愛とか喜びを手にしたいんだ
oh e-oh oh e oh oh e
努力は裏切ることはないなんて
oh e-oh oh e oh oh e
気付いた 総てが 偽り

もうあんたで良いや
馬鹿な夢 抱くから
走り方教えてくれよ
「僕が僕であるということ」/シシド・カフカ

 <走り方教えてくれよ>…ここでやっと彼は、逃げるのをやめて、初めて<アタシ>の目と真っ直ぐに向き合ったことが伝わってきます。そこから3曲目「拳と花束」、4曲目「3.2.1...CUT 」と、彼の背中を押すための<アタシ>からのメッセージ&アドバイスソングが続きます。<女々しいとかどうでもいいじゃん>、<好きならばぐずぐずしないで行けよ>、<できるよ 勇気 出してみな>、<何はともあれ あとは君次第 うまく行ったら…ねえ ビール奢りなさいよ>、厳しくも愛に溢れた彼女の言葉が、聴いているわたしたちの胸にも響いてくるようです…。
 
「人にぶつかるなよ」って引いてくれたその手を
繋いだまま歩いた
ガラスに写る二人
ホワイトストライプスみたい
何も恐れはしない季節

伝えようとして 見つめても 君は
言わせないように お喋り続けるの
ずらした視線 その先に もう
ふたり未来は見えなくて
「たったひとこと」/シシド・カフカ

 ただし、唯一このアルバムに収録されている全6曲のなかでちょっと異質な1曲があります。それが5曲目に収録されている「たったひとこと」という楽曲。とある女性の失恋ソングなんです。これはもしかしたら、芯が強くてかっこよくて、ここまで何の隙もないように見えた完璧な<アタシ>のかつての恋なのかもしれません。ちなみに歌詞中に出てくる<ホワイトストライプス>とは外国の“姉弟デュオ”のことだそう。ガラスに写った姿が“恋人”には見えないところにも切なさがありますよね…。

「ゴメン」たったひとこと
聞きたいだけでした
美しく終わるなら

何も言わない事は
やさしさなんかじゃない
あの時にはそれがわからず

今はどこにいて
何をして また
誰を愛して 誰を抱き締めてる?
もう この街は君なんて 忘れ去って
季節が通り過ぎる

好きだよと言って
抱き締めて ずっと
本気だったのにな
叶わない恋心
泣き出しそうな冬空にもう捨てて
忘れようとしたんだ

あんなに あんなに 大好きだったのに
「たったひとこと」/シシド・カフカ

 伝えたいことも言わせてもらえない、伝えてほしいことも言ってくれない、そんな関係のなかでそれでも思い続けた<あの時>の叶わない恋…。<あんなに あんなに 大好きだったのに>という切々とした想いは、バーで説教をしていた強気な女性からは想像もできません。でも、その恋があったからこそ、彼女は今、強さを手に入れたのかもしれません。いえ、今だって強さの中には、きっとそんな“弱さ”も秘められているのではないでしょうか。
 
 さて、そんな様々な感情が揺れ動く5曲を経て、ラスト6曲目の「FLY HIGH!」を聴いてみてください。誰だって、いつも強くはいられないし、ダメダメなときも、挫折するときもある。それでも<ここから風を変えてゆくのは 君でしょ>、と力強く歌う“シシド・カフカ”からはまさに『マザー的な、テレサ的な愛』をビシビシ感じるのです。最近、元気がないという方に是非、オススメのアルバムです!