なるべくあっけらかんとひょうきんに伝える。主人公を強がらせる。

 2020年2月19日に“edda”がニューアルバム『いつかの夢のゆくところ』をリリース。アーティスト名に“物語を語り継ぐ”という意味を持つ彼女。今作の物語の舞台は、忘れられた夢を追いかけて辿りついた【夢の館】です。そこに集まった、様々な主人公の夢のお話が1枚のアルバムへと描き出されております。全11曲、じっくりとご堪能あれ…!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“edda”のインタビューを【前編】【中編】【後編】に分けてお届けいたします。今回はその【前編】です。とにかく物語を愛し、主人公ひとりひとりを「この子」として語るeddaの言葉を、是非、アルバムと併せて、受け取ってください。よりいっそう物語の世界を楽しめるはず…!

― アーティスト名に“物語を語り継ぐ”という意味を持つeddaさんですが、いつ頃から物語というものに惹かれ始めたのでしょうか。

もう本当に幼い頃から。とにかくファンタジーばかり観ていました。とくにNHKの作品が好きで。物語のタイプで言うと、人間じゃないものと人間との関わり合いを描いたような作品が好みです。人間の持つポテンシャルみたいなものにもすごく興味がありますね。今回のアルバムのなかにもいくつもそういう物語を入れました。

― これまでいろんな物語を読んできたなかで、とくに忘れられない作品はありますか?

それこそ、今回のアルバムに入っている「ルンペル」がそうですね(※正式名:『ルンペルシュティルツヒェン』というグリム童話。今作の“悪魔の名前当て”というモチーフは、イギリスの『トム・ティット・トット』などにも見られる)。子どもの頃『トム・ティット・トット』という絵本を読んで、そのイラストの印象が強烈で、ずっとまた見たいと思っていたんですけど、タイトルが思い出せなくて。10年ぐらい探していたんですよ。でも母と「これはもう見つからないね」って話していて、最終手段として『Yahoo!知恵袋』で調べまして。

― ご自身で投稿されたんですか?

はい。「ある女の子がいて、悪魔の名前を当てたら助かるよというような内容で、多分その悪魔の名前がタイトルだったと思うんですけど」って書いたら「『ルンペルシュティルツヒェン』じゃないですか?」って回答してくれたひとがいて。でもそのときは「いや、絶対に違うわ」と思ったんですよ(笑)。なんで違うと思ったかというと、ちょうど海外ドラマの『ワンス・アポン・ア・タイム』を観ていて、それに“ルンペル”が出てくるんです。「だったら、私は観たときに気づく!」って。

だけど一応『ルンペルシュティルツヒェン』で調べてみたら『トム・ティット・トット』にたどり着いて。これは“ルンペル”から派生した別のタイトルだったんですよね。そこで「同じだったんだぁ…!」という衝撃がありました。そうやって、私の人生の長い期間をかけて調べた絵本だったから、いつか曲にしようと思っていて。実は2014年くらいに作った曲なんです。それを今回やっとみなさんの前に出すことができました。だからすごく思い入れの強い物語ですね。

― eddaさんはずっと“物語の主人公”を曲で描いていますが、それはご自身の想いや体験とはほぼ関係ないものなのでしょうか。

基本的にはそうですね。主人公と私はまったくの別人。だけど実は、書いている途中に「あ、自分も結構こういうことを思ったりするな」とか「あ~、こういうときってこう言いたくなるよね~」とか、物語の主人公と自分がリンクする瞬間はあります。その共感みたいなものがあるときには結構、筆が乗りますね。

― ちなみにeddaさんご自身はどんな性格・性質だと思いますか?

めちゃくちゃ感情がわかりやすい人間だと思います。全部わかりやすく表現する。悲しいときには本当に悲しい顔をするし、楽しいときはワーッ!って楽しむし、怒るときはガーッ!って怒るし。かなり言葉にもするタイプですね。すぐ「嫌だ!」とか言いますもん(笑)。

― 各物語の主人公は、どのように生まれることが多いのでしょうか。

今回のアルバムでいうと、たとえば「ポルターガイスト」は、写真からインスピレーションを受けてというパターンでした。私は廃墟が好きで、よく写真集を買って読んだりもするんですけど、ある廃墟のなかに置いてあるピアノの写真がすごく綺麗だったんです。それで、この子を主人公にしたいと思ったところから、曲ができました。あと「夢日記」は、実際に私が夢日記をつけていまして。同じように夢日記をつけている子がいたら、どんな感じなんだろうと想像したところから発展したパターンです。

言葉がきっかけになることもありますね。前の曲なんですけど「不老不死」は、まず<お前なら私のことを ねぇ殺してくれるでしょ>というワードが先にあって。じゃあそんなことを言う子はどんな主人公かな? 不老不死にしたら面白いんじゃないかな? とイメージを膨らませた感じです。生まれ方はかなりバラバラですね。いろんなところに誕生のきっかけは転がっている気がします。

― 人称にもかなりこだわりがありそうですね。

ですね。その子の性格で使い分けています。わかるので。「この子は自分のことを名前で呼んでいるだろうな」って思ったときには、あえて一人称を出さなかったり。あと、さっきの「ポルターガイスト」の子は<アタシ>なんですけど、この曲はアニメーションでクリエイターさんとコラボレーションするために書いた楽曲でもあって、コラボ相手の“ギブミ~!トモタカ”さんをイメージした主人公でもあるんです。ちょっと強い女の子というか。芯が通っていて、平たく言うとヤンキーみたいな(笑)。そういうイメージがすごくあったので、これは<アタシ>しかないなと、この一人称にしましたね。

― その子たちの物語をご自身で歌うときは、どんな感覚なのでしょう。

めちゃくちゃなりきって歌います(笑)。演じる感覚に近いですね。ただ、最も時間がかかるのが1番のAメロで、そこで物語を曲としてすり合わせているんですよ。「歌詞をこういうふうに読むとよくない」とか「こう歌うとハマるな」とか。そこがスルッといけたら、1番のサビから2番のBメロぐらいまでは、主人公になりきった気分で歌って。そして終盤では、客観的に「この子はこうだなぁ…」という気持ちが浮かんできたりするんです。いろんな視点で見ながらレコーディングすることが多いですね。

― ライブのときはまた違いますか?

全然違うんですよ。レコーディングは音が近いというか。全部の細かいニュアンスがちゃんと入るので「ここはメロディー通りに歌うんじゃなくて、音を投げて、喋っているように歌おう」とかそういう表現ができるんです。でもライブではそれがなかなか伝わりにくいので、どちらかというと、曲のノリとか歌詞をはっきり伝えることを意識します。だから、レコーディング中や歌詞を書いているときは“物語を作り込む”ところに特化して、ライブのときは“音楽を楽しむ”ところに重点を置いている気がしますね。

― eddaさんは今年で活動4年目に突入しますが、歌詞面で変化したと思うところはありますか?

あぁ~…どうかなぁ…。これはすごく感覚的な話になるんですけど、私は結構ワードを色や形で見ているんですね。でも初期はそうでもなくて。本当に絵本を書くような感じで、物語を歌詞でどう伝えるかということだけをすごく気にしていました。それが最近は、差しとか抜きとかを意識するようになっていて。

― 言葉の“差し色”みたいなイメージでしょうか。

そうそう。重い色ばっかりだったから、ここはちょっと黄色にしてみようという感覚。文字が淡々と説明的になってしまうと色が重たいとか、この子の性格だともっと軽めにしないといけないとか、そういうときにはカタカナを使ってみたり。なんかそういうところは、少しずつ上手になってきたんじゃないかなと思いますね。絵を描く感覚に近いです。

― 歌詞を書くときに、好きでよく使う言葉や、逆にあまり使わないように意識している言葉はありますか?

好きなワードは使えるのが一回だけという意識が強いので、よく使うものはあまり思い浮かばないんですけど、使わないようにしているのは「そのひとことを言っちゃったら終わりじゃん」って言葉。そのひとことに委ねちゃうような言葉ですね。たとえば「愛してる」とか。その「愛してる」に委ねず、どういう目線で、どういう心境だから出た言葉なのかを描きたいですね。

なるべく「悲しい」とか「切ない」とか「傷ついた」とかも、直接的に表現しないほうがいい。あと、昔から注意していることなんですけど、悲しいことを悲しく言わないようにしたくて。なるべくあっけらかんとひょうきんに伝える。主人公を強がらせる。そのほうが「あぁ、無理してるこの子」って逆に刺さるので。それは私が歌詞を書くときに大切にしていることでもありますね。

【インタビュー中編に続く!】

(取材・文/井出美緒)

◆2nd Album
『いつかの夢のゆくところ』
2020年2月19日発売
初回盤 VIZL-1709 ¥3,600
通常盤 VICL-65311 ¥3,000

<収録曲>
1. こもりうた
2. 夢日記
3. ポルターガイスト
4. 時をかけ飽きた少女
5. Alice in...
6. イマジナリーフレンド
7. ルンペル
8. 戯曲
9. 雨の街
10. リブート
11. バク