真っ白な1行に辿り着く為には、綺麗じゃない過程を通る必要があった

 2020年1月29日に“家入レオ”がニューシングル『未完成』をリリースしました。タイトル曲は、現在放送中の月9ドラマ『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』主題歌です。同曲について彼女は「信じていた愛や正義が、時を経てただの執着になっていく様を描きました。人が人を想う時に生まれる大きなパワーを、持て余してしまう未完成な私だからこそ作れた曲です」とコメント。直情的で叫びにも似た歌詞と歌声をご堪能ください。

 さて、今日のうたコラムでは特別に、そんな新曲を書き下ろした“家入レオ”による歌詞エッセイをお届けいたします。綴っていただいたのは「未完成」に込められている、ある“真っ赤”な感情について。今、これを読んでいるあなたの内側にも「それ」が渦巻いてはいませんか? 長い間「それ」から目を背け続けてはいませんか? 是非、歌詞と併せて、ご熟読を…!

~「未完成」歌詞エッセイ~

わたしの内側で渦巻いている「それ」は、身体を求めていた。宿る場所を探し求めていた。

自由に動かせる手足、この世界を見つめる瞳、ピアノの旋律を聴くための耳、透き通った言葉を話すくちびる、敬愛のしるしに相手の首筋に押し付ける鼻。「それ」が人間の姿に憧れ、名前を欲しがり、この世に誕生したいと願い暴れ回るたびに、わたしの心は弱り自分を見失っていった。

だからと言って静寂が続き過ぎるのもまた怖かった。休戦は「それ」がわたしの中で休息しエネルギーを取り戻していることを意味するからだ。昼夜関係なく突発的にはじまるそれは消耗戦と化していた。

1分1秒が永遠に感じられるようになった頃、思考がいよいよ停止しようとしているのが分かった。霞んでいく視界をなんとかクリアに保ちたくて、瞬きをしようと目に力を入れる。上手くいかない。皮膚が引きつって痙攣してしまうのだ。びっくりするくらい長い時間を要して、瞬きをすることができた。自分の体力の限界が近いことを知って少し笑う。その微かな笑いをもし他人が見たら、苦痛に顔を歪ませているように映るのだろうなと悲しく思った。

そして、喉の渇きを覚えた瞬間。自分の中でこれだと思った。分かった。どんな感情も、生理的な欲求には敵わないのだ、と。わたしは歯を食いしばり身体中から生きる力をかき集め「それ」にその閃きを叫び伝えた。

ねぇ!形!歌という形にする!

すると、それまで荒れ狂っていた海が嘘のように落ち着き、横殴りの雨は止み、風はわたしの髪を優しく撫で、雲がひしめき合いグレーがかっていた空には虹さえ見つけることができた。

何が言いたいのか分からないけど、歌いたいと思った。歌にしたいと思った。

1月29日にリリースする「未完成」のコラムを書いてみませんか?と歌ネットさんからお声がけ頂き、どんなことを書こうかなぁと思っていたのですが従来通りのスタイルじゃない方がいい気がして。そして聴く人の解釈を限定し過ぎるのも違う気がするなぁと思い、分かるような、分からないような、だけど真っ赤なものを書きました。

「未完成」は、一言で言い表すのがとても難しい作品です。正直今でも、分からない。物語として、もしかしたら破綻してしまっているかも、とさえ思います。歌いながら、自分が「君」側に回っていたり、かと思えば、また「僕」側に舞い戻って来たりするから。定まらない感情たち。だけど、破綻してしまっていることこそが、人生のリアルな姿だと思います。思い描いた通りになんていかないから。そして、「未完成」は愛というものすごく大きなものに立ち向かった曲です。

ひとつの出来事をきっかけに、これまでの愛の記憶が一気に蘇って全身を駆け抜けていって。悲しくて、苦しくて、痛くて、情けなかった。上手に伝えられず私の中に残ってしまった普遍的な愛からずっと、何年も目を背けた結果、「それ」は、暴動を起こしたのだと思います。気づいてよっていう、もうひとりのわたしからの命がけのメッセージでした。

ラストサビの<「会えて良かった」と君が笑う>という真っ白な1行に辿り着く為には、綺麗じゃない過程を通る必要があった。どうして?なんで?って悲しみも後悔も憎しみも相手に投げかけて、痛みを覚えて、自分を恥じる時間が必要だったんです。だからこの<「会えて良かった」と君が笑う>は、本当にどんな言葉よりも美しいものです。

そして、その痛みと向き合った結果、それがわたしの魂の一部になっていくのを日々感じていて。多分もう少し時間が経てば、完全に同化してしまう。そしてもっと時間が経ったら境目が分からなくなってしまうんだろうと思います。

忘れることとは違うけど、どんな傷もどんな喜びもやっぱり薄れていくんだと改めて知りました。

だから、歌にする。この真っ赤な赤を出来るだけそのまま残しておきたいから。

<家入レオ>

◆紹介曲「未完成
作詞:家入レオ・Kanata Okajima
作曲:久保田真悟(Jazzin'park)

◆16th Single『未完成』
2020年1月29日発売
初回限定盤A VIZL-1719 ¥1,800+tax
初回限定盤B VIZL-1720 ¥1,800+tax
通常盤 VICL-37518 ¥1,200+tax

<収録曲>
01. 未完成
02. Unchain
03. Every Single Day(Acoustic Version)
04. 未完成(Instrumental)
05. Unchain(Instrumental)