どんな想い出も、感情も「今」を通してしか知ることはできない。

 今日のうたコラムでは、元ふぇのたすのメンバーであり、バンド解散後、より本格的に作詞作曲家として活躍をなさっている“ヤマモトショウ”さんのスペシャル歌詞エッセイを3週に渡ってお届けいたします。フィロソフィーのダンス、桜エビ~ず、MINT mate box、寺嶋由芙、などこれまで数々のアーティストに歌詞を提供してきた彼。

 そのなかで“共作”をする機会も多々あるんだそう。そこで今回のうたコラムでは、本人との歌詞の共作をテーマにエッセイを綴っていただきました。第1回第2回に続く最終回では“SHE IS SUMMER”“MICO”さんとの共作について。同じく元ふぇのたすのメンバーである彼女。そんな二人がそれぞれ音楽活動を再スタートさせ、作り上げた楽曲とは…。是非、最後までご熟読を!

~最終回歌詞エッセイ~

 僕はバンドが好きで、音楽をはじめるときもバンドとしてはじめるという選択肢以外はなかった。好きだからというのもあるけれど、当時は音楽の授業でやったレベルでしか楽譜も読めないし、ましてや曲をつくることもできない。とりあえずバンドを組んでみて、そこからギターをはじめた。それしかなかった。

 ところがやってみれば意外となんでもできるもので、曲をつくってみると曲になった。音楽は好きだったし、それをつくるのも楽しかったので、ひとつプロを目指してみようと思ったけれど、やっぱりそれでもバンドが好きだった。バンドを続けてそこで曲を書いたり詞を書いたりしてデビューした。自分が今、音楽の仕事をしているのは、バンドをやっていたからであって、もう少しいえば、誰かひとりのボーカリストのために音楽を作っていた時代があったからだ。

 この連載中になんども自身の言葉で書いていることだけれど、僕はアーティストが自分の思いだけを歌う必要はないと思っている。というよりも、もう少しつっこんでいうならば、聞き手はそれを「アーティストの思い」であると想定して聞く必要はないともいえる。だが、もちろん作り手はある種の、当然そこに存在するだろうなんらかの思いをもって楽曲をつくっている。そりゃそうだ、と誰もが思うかもしれないが、本当はそれほど簡単なことではない。実際に、これがもう我々にとって単に職業であったり、日々のルーチンのようになってしまったら、極論「何も考えなくても」それは出来上がってしまう。

 だから、バンドをやめたときにやりたいことでもない音楽を量産するくらいなら、別にそこで音楽をやめてしまうこともできただろう。僕はそう思ったし、ふぇのたすとして一緒にやっていたボーカルのMICOも、そこで音楽を続けないという選択肢もあったように思う。

 でも二人ともあれからずっと、音楽を続けている。彼女がSHE IS SUMMERとしてソロプロジェクトをはじめるとき、あるいは僕が作詞作曲家として音楽活動を再スタートをするとき、もうすでに「音楽がつくれるようになっていた」僕らはそれぞれ、もう一度何かをつくりはじめることの意味と意義を確認しなければならなかったと思う。そしてそれはたぶん、それぞれに間違いなく必要なものだった。だから今も、音楽を続けている。

 SHE IS SUMMERプロジェクトとして最初に「とびきりのおしゃれして別れ話を」という楽曲を共作した。ふぇのたすでやったこととは違うことをやる、それは新しく始める以上当たり前のことだと思うけれど、意外と難しい。なぜなら、少なくともこれまでの経験がそこにあるからだ。それをなしに、前に進むことはできない。
 
 しかし、一方で我々はおそらく誰かが自分たちのことを「こうみている」というのとは全く異なる意味で、自分たちの経験を、認識し直し続けている。端的に言えば、それが「自分らしさ」であって、誰かがそうしろといったように「別れ話」をしてその先に行かなきゃいけない、でも私は「とびきりのおしゃれして」その話をするけどね、ということなのだ。

 「出会ってから付き合うまでのあの感じ」をつくったときには、一度やりたいことがわかってその上で創作をしなければいけなくなっていた。それは簡単なような、むしろハードルはあがっているような、ちょっと感じたことのない状況だった。「同じことはしたくない」というのはクリエイターの基本的な信念だとは思うが、人はそんなに器用ではない。どうしても、過去の自分とも比べてしまう。今度はその音楽をはじめたときの、まっさらな気持ちも思い出してみたかった。「出会ってから付き合うまであの感じ」というタイトルにたどりつくまで、考えていたことはそんなことだったように思う。

 そして去年の年末から今年にかけて一緒に作ったのは「君をピカソの目でみたら」。つくるまえに、久々にMICOと色々なことを話したと思う。「色々なこと」というのは、本当にそうとしかいえないことだ。そのとき、僕らはどうしても過去を振り返る。未来はまだ見えないし、みているとしてもそれは「今」という視点の中で見ている。実はそれは過去も同じだ。「今思えばこうだった」「今だからこう思える」という陳腐な言い換えもできるけれど、僕らはどんな想い出も、感情も「今」を通してしか知ることはできない。
 
 そして、その「今」が過去や未来に移動していく。そのすべてをもって、「色々」を語ったときにはじめてその出来事の全体像がみえてくるし、僕らにとってそれがどんな出来事なのかわかってくる。ピカソのキュビズムは時間的制約をこえた視点をもった芸術であるといえるが、音楽にもその音としての経過をこえた時間的な拡がりがあって、僕らは常にその中にいる。

 きっとまた未来から僕らのつくった言葉と音楽をまた「違う目」でみる、そんな時が来るだろうと思う。そのときのために、きょうも、音楽を続けている。

<ヤマモトショウ>

◆ヤマモトショウ主催による作詞ワークショップ
#ロゴススタジオ 第二期最終回スペシャル
ゲスト:SHE IS SUMMER・MICO

2019年12月20日(金)
19:00 open 19:30 start(予定)
場所:ピースオブケイク本社イベントスペース
入場料:1500円
詳細はコチラ!