作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。歌詞愛好家のあなたも、プロの作詞家を目指すあなたも、是非ご堪能あれ!今回は、YUKI、中島美嘉、JUJU、Aimerなど数々のヒット曲を創出している音楽プロデューサー・agehasprings代表の「玉井健二」さんをゲストにお迎え…!
玉井健二
代表作
「Hot Stuff」/JUJU
「Heavenly Star」/元気ロケッツ
「あしたいろ」/安田レイ
「Re:pray」/Aimer
作詞論
「 歌詞を書く人は、
やはり人に詳しい人であるべき 」
「作詞」とフツウに呼ばれていますが、あくまで創っているのは「歌詞」だ、という点が当たり前のようでとても重要なポイント。そっけなく言い放ってしまえば歌、あるいは唄い手のための「台詞」や「台本」。「歌のための」という括りは忘れがちですが、やはりあらためて大切だと思っています。

この限られた、且つ無限の効能を持ち得るスペースをどれだけ活用できるか?主旋律(メロディ)や歌唱、アレンジされたすべてのパートと互いに活かしあえているか?その相関関係も、歌詞として好意的に受け止めてもらえるかどうかの分岐点となります。

そして、人間ならではの至らなさや虚しさをいかに良い加減のポップに表現できるか?いかにみっともない部分を上手にさらせるか?といった、ふだん恥ずかしい、隠したい、と感じる歪な心のヒダを共感しやすいポイントで切り取ることが重要です。人が誰にでもやたらめったらには語れないような経験、このツボを程よい強さで突くために、歌詞を書く人は、やはり人に詳しい人であるべきだと思います。
[ 玉井健二さんに伺いました ]
  • Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。

    音楽を職業にする意識で触り始めた頃、中学生の頃には引き出しにノートが何冊かありました。ただ歌詞というものにどれだけの効能があるのか本当に解り始めたのは20歳前後だったと思います。

    師匠である音楽プロデューサー・木崎賢治さんに秘伝の技法を丁寧に教えていただきながら、同時期に木崎さんが関わられていた槇原敬之さんや藤原基央さんと比較される、というツンデレな環境で毎日もがきにもがいた結果、ある日歌詞がすらすらと出てくる事に気づきました。

  • Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

    たいていはストレスを感じる瞬間です。いちばん良い種は、自分や他人の孤独感や虚無感から得ることが多いです。憤るような出来事や不条理を感じる瞬間、その根っこや逆サイドに大抵素晴らしい種はあります。一方で、大勢で騒いでいるとき、その場には必ずそのときどきのグルーヴのようなものが生まれます。そのグルーヴにひとつ別の角度の視点を加えることで得難いフレーズになったりもします。

    また、スマホ片手に誰かを待っている人、だいぶやる気がない店員さん、少しだけ距離を空けて歩いているカップル、ガラス越しに観える合コン、良い結論が観えるはずの無い打ち合わせ、ぜんぶ前後のストーリーや吹き出しを勝手に加えるだけで歌詞のプロットになり得ます。

    いずれも、インスピレーションを得ること以上に、インスピレーションの種と出会った瞬間をどう忘れないか?の方が大事かもしれないと思っています。

  • Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?

    ・唄う人のキャラクターを正確に把握する
    ・その上でなるべく明確に設定・プロットを見定める
    ・歌としての耳ざわりがどんなテイストであるべきか見極める

    まず、この3点をその時々の状況やその少し先の状況を踏まえて整えます。それと思考する順序もこの順番で定めていく事も大切なポイントだと思っています。

    例えば“止まない雨はない”というテーマをそのアーティストが歌うべき状況だとしたら、唄う人によってその語り口は変わるし、どの立ち位置でどういった状況で唄うのか?が、心を掴まれるかどうかを大きく左右することもあります。ここは理想論以上に極めて現実的にその人がどうあれば赤の他人が心を開いてくれるか?そこから思考を展開してゆくべきだと思います。

    その上で最初に重要視するのはやはり「調子」です。選んだ言葉が生む「調子」がいちばん最初の結果を左右する、と思っています。その声に乗って耳に入ってきた時にどういう調子であれば無意識のうちに掴まれるか?ここをもっとも、そして最初に重視します。具体的なチェックポイントは信号待ちをしている時に意図せず耳の中で鳴るかどうか?そして鳴り続けるかどうか?です。

  • Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。

    甘めのコーヒーとちょっと不自由な環境です。エスプレッソのダブルに砂糖を4~5杯くらい入れたのがあれば最高です。それを持って決してベストではない環境で軽くストレスを感じるくらいの方がはかどります。すぐ近くでわりと大声で打ち合わせをされている、とか。

  • Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?

    JUJUの「Hot Stuff」のとき。

    スケジュールの都合で夜の会議室で本人と一緒に一気に仕上げました。窓の外は記録的な大雨が降っていて、帰りのタクシーが拾えないんだろうな、と心のなかでお互い感じながら、数時間後にせまった締め切りに追い込まれながら、後頭部に唐辛子オイルを塗りたくりながら深夜に書きあげた大人の女性がアガる歌。もっともたいせつな曲のひとつです。

  • Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?

    良い歌詞だという事を見破られない歌詞。良い曲だな、と思わされる歌詞です。

  • Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。

    これは!と思った種はたいていは野田洋次郎さんに取られています。その上でこの人には決して叶わないんだな、と感じさせられたのがYUKIちゃんの「Home Sweet Home」。努力で補えない圧倒的な才能があることを実感としてこの時知りました。

    そしてBase Ball Bearの「「それって、for誰?」part.1」。それってfor誰?・・・だけであと何もいらない、と思える出来栄え。それとamazarashiの「たられば」。まだこんな切り口が残っていたという事実に気づかなかった自分を恥じました。

  • Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
         または、使わないように意識している言葉はありますか?

    まずよく使う言葉がないように心がけています。具体的に使わないように意識しているのは、ありきたりですが「愛してる」です。「愛してる」を使わずどうやってそれ以上の想いを伝えるか?などはイロハのイだと思います。

  • Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?

    心が動いた瞬間を忘れない事だと思います、心にいつも耳を傾けてほしい、といつも願ってます。

  • Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    歌詞を書きたい、というお題だとしたら、まず詩を書こう、としないようにしてください。そういう高い場所から降りてまずは聴きたい歌を創ってください。あと、凄いと言われる歌詞を書こうなどと決して思わないでください。賢い歌を欲しがる人はそんなにいないと思いませんか?

    ただ泣いて、笑って、時には怒って、ともに叫んでたい、のが人だと思います。作曲家や編曲家、そしてアーティストといっしょに唄いたくなる歌を創る、という気持ちでトライしてください。

音楽プロデューサー agehasprings代表

YUKI、中島美嘉、JUJU、AimerなどJ-POPシーンを代表する数々のアーティストのヒットを創出する傍ら、自身のユニット元気ロケッツでは2010年に世界初の5.1chフルCG3Dミュージックビデオ「make.believe」を発表し、文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出され、東京、ベルリン、ラスベガスなどで3Dライブを開催した。

またagehasprings代表としては蔦谷好位置、田中ユウスケ、田中隼人、百田留衣、飛内将大、釣俊輔など気鋭のクリエイターを続々と発掘し世に送り出し、2011年のメジャーデビュー前よりAimerのマネジメント代表も務める。

近年では最新3DCG技術やAR演出をフィーチャーしたライブイベント『Synapples2.0』や、6月23日開催・京都岡崎音楽祭2018 OKAZAKI LOOPSでの『node_vol.2』をはじめとするライブイベントのプロデュースも手掛けるなど、幅広い分野で活躍している。
INFORMATION

著書:『THE PRODUCER’S BIBLE 人を振り向かせるプロデュースの力 クリエイター集団アゲハスプリングスの社外秘マニュアル』(リットーミュージック)

agehaspringsによる共創プロジェクト
agehasprings the Lab.