人に対しての期待値がちょっと変わったんですよ。

―― 2曲目「ストローマン」からの3曲目「シンプル」は、声色もまったく違って、本当に同じ方が歌っているのだろうかと思うくらいでした(笑)。

僕もたまに自分でそう思う時があります(笑)。今回のアルバム曲ではとくに「シンガーソングライターとして真面目な感じだけでやっていきたいなら、そういうことを歌わないほうがいいんじゃないの?」みたいなことをどんどん投下しましたね。なんか…人に対しての期待値がちょっと変わったんですよ。みんな綺麗で美しいものでは全然ない。でも汚い部分があるから美しさが際立つんだとしたら、もっと自分自身の汚い部分をさらけ出していったほうが、絶対に美しくなれるだろうなって、いつからか感じるようになっていて。

―― 6曲目の「いいひと」も、かなりさらけ出されていますね。

この曲…ねぇ。どういうふうに受け取られるのだろうか(笑)。そもそも生まれたきっかけは、レコード会社のスタッフに“いい人”っていう曲を書いてほしいと言われたことなんですよ。「よくいい人って言われるけど、それが全然嬉しくない」って。で、僕もやっぱり嬉しくない。大体<都合のいい人>とかどうでもいい人じゃないですか。だから“いいひと”の本心を書きたかったんです。

―― <心の中で その人をボコボコにして血祭りにあげる>、<心の中で そんな大人を火あぶりの刑に処してる>…などなどバイオレンスなフレーズが飛び交っております。

そう。「いいひと」は日常でバイオレンスなことできないから、せめて音楽でね(笑)。これは“いいひと”と呼ばれたことがあるすべての方に捧ぐ曲です。

―― アルバムのなかで「これを書けてよかった!」と思うフレーズはありますか?

<へんばあどちょろぎだけびゃっこけれでゃばっちゃん>ですかね。レコーディングをした瞬間に、みんながなんて言ったかわからない顔をしていたから(笑)。

―― 9曲目の「Harazie!!」ですね。たしかにこの曲は翻訳が大変でした(笑)。意味は…<ちょろぎだけちょっとくださいばあちゃん>という感じで合っていますか?

そうそう!翻訳ありがとうございます(笑)。これは秋田県民だったらみんな何と言っているかわかる歌詞だと思います。たとえば<け!>が“食え”だったり。タイトルの「Harazie!!」で“お腹いっぱい”だったり。

―― ちなみに<しゃっついいごどじっちゃん>は何でしょうか。

それはね“元気いいねぇ じいちゃん”です。元気というか“しゃっつい”っていうのが“勢いあるねぇ!”みたいなニュアンスの言葉なんです。

photo_01です。

―― 優さんの地元・秋田への愛が詰まっている1曲ですね。

そうですね。秋田でフェスをやらせてもらったり、あきた音楽大使に任命してもらったりしていることもあるし、自分を全て出すというアルバムにしたいと思ったとき、僕に一番染み付いている秋田弁で曲を書くことは自然だなって。サウンドのほうでも“ホーン”を入れてみたりした曲なんです。別に避けてきたわけじゃないんですけど、今までやったことがなくて。そういう意味でも、結果的にアルバムで一番の挑戦曲になっちゃいましたね(笑)。

―― 最後に。アルバムと同じタイトルである15曲目「STARTING OVER」のサビには<叶えたい夢も腐るほどある>というフレーズがありますが、優さんの叶えたい夢のひとつを教えてください。

やっぱり『秋田CARAVAN MUSIC FES』を毎年ちゃんと開催して、秋田の13市を回り切るということですね。今年で3回目の開催になるんですけど、2年前にインタビューしていただいたときはまだ1回目で、このフェスを知っている人も少なくて。だけど1年ごとに「うちの市でやらないか?」って手を挙げてくれる市が増えたりとか。その熱量が以前は「やってみてもいいですよ」くらいだったのが「ぜひうちで!」って言ってくれるくらいになっていたりとか。周囲の方々がちょっとずつ変わってきていることを実感しています。

―― とくに今年は天災が酷いので、改めて13市を回り切ることの大変さも感じますね。

僕も野外フェスをやらせてもらえるようになって、自分でフェスを主催しているミュージシャンたちの気持ちをすごく感じるようになりました。滋賀県のイナズマロックフェスもそうだし、今年で言うと広島県のポルノグラフィティさんの野外ライブもそうだし。台風が来ているときとかって、開催することが必ずしも正しくはないじゃないですか。でも、その日をすごく楽しみに来てくれている人たちのことを考えると、簡単に中止にするのも違うし。

だからスタッフ含めみんな、いろんなものとせめぎ合いながら、考えて考えて、判断をすると思うんですね。それでもやっぱり賛否両論がある世の中なので、せめてやっている側の人間である僕は、そのミュージシャンの決断に賛同したいというか。どんな決断でも肯定的でありたいなって。そしていつか自分がその問題に突き当たる日が来たらどうするか、ということはかなり考えていますね。

―― まずは4回目の『秋田CARAVAN MUSIC FES』を、来年また無事に開催したいですね!

そしてこれから秋田フェスを続けていくなかで、自分と同じかそれ以上に「秋田を盛り上げよう!」とみんなが立ち上がっている状態になることも夢ですね。「高橋 優だけに任せてらんねぇ!」みたいな。「私にやらせろ!」「俺にやらせろ!」という人たちがたくさんいる将来を今、描いています。


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