「さよなら」と「甘えてしまうんだよ」の主人公が重なって…。

―― ここからはニューアルバムについてお伺いしていきます。1stアルバム『HAPPY』2ndアルバム『V(ビバ)』ときて、今回は『Enjoy』というタイトル。すごく櫻子さんらしい流れですね。

ありがとうございます、そうなんです。もう3枚目になるということで、ファンの方に求められているものと、自分がやりたいものが一致するアルバムにしたいという強い思いがありました。あと、今年に入ってから舞台をやらせていただいたんですけど、本番前にはキャストみんなで円になって「Enjoy!」って声を合わせていたんです。それから「Enjoy」という言葉がどこか自分の日常にも沁み込んでいって、きっと今の私を表す言葉ってこれなんだろうなと、タイトルにしました。だから今の私らしさが詰め込まれた1枚になっていると思います。

―― 最初の3曲「one」「泣きたいくらい」「ツキアカリ」は【大人の恋愛】3部作のような印象を受けました。この曲順はどのように決められたのでしょうか。

たしかに言われてみると3曲とも【大人の恋愛】ですね!でもあえて歌詞の内容で揃えたというわけでもなくて。1曲目の「one」は、歌詞がない段階で「これが一番最初だろうな」って運命的に感じていたんです。そして、初めて聴いてくれる人もファンの人も聴いて安心するような既存曲「泣きたいくらい」を2曲目にして。私らしいアップテンポな新曲を入れたいというところで「ツキアカリ」を3曲目にしました。ただ、女性が主人公のラブソングは、みんながすんなり入っていきやすいだろうなということは意識しました。

―― この3曲の主人公はいずれも相手と恋人同士なのだと思いますが、「one」の<なぜか不安になるの>や、「泣きたいくらい」の<楽しさと切なさが寄り添う日々>や、「ツキアカリ」の<こんなに夢中で切ない>というフレーズなど、ただ“好きで幸せ”だけじゃない感情が描かれているところがリアルですね。

その“好きなのに不安”とか“楽しいのに切ない”という二面性は、ラブソングを歌う上で私が大事にしたいところかもしれないです。恋愛だけじゃなくて、大好きな仕事をしていても「もうやだ!」って思うことありますし(笑)。でも、嫌いになったり、マイナスの感情が生まれる瞬間があるのは、好きだからこそなんですよね。それが「どうでもいい」ってなったとき、本当に終わりなんだと思います。

photo_01です。

―― 櫻子さんがとくに共感するフレーズというと?

「ツキアカリ」の<ゴメンねと おどけた絵文字光る 寂しくて 無視をした夜は雨>というフレーズは、わかるなぁ…と思います。きっとこの二人はちょっと倦怠期なんでしょうね。それでケンカも多くて、向こうが「ゴメンね」と言ってくれているのに、それを許せない女の子の気持ちがリアルです。あと「one」は大人な女性の主人公をイメージしたんですけど、全体的に「将来、私が大人になったらこんなふうに恋を感じるときがくるのかなぁ」と思ったりしました。まぁ「泣きたいくらい」は私が作詞に参加しているので、全部共感できます(笑)。


―― とくに「泣きたいくらい」の<いつの日か 大人の恋愛なんて 想像した でも結局 いまと変わらないのかも>というフレーズは、今日お話を聞いていても今の櫻子さんの本音であるように感じました。

ですねぇ…。この曲って“資生堂SEA BREEZE CMソング”で、実際のCM映像を見ながら歌詞を考えたんです。なんか…久々にあんなにキラッキラなカップルの光景を観ましたね。海で「キャー!」とかやっているじゃないですか!もうだんだん観ているこっちが恥ずかしくなってきちゃって(笑)。

―― わかります(笑)。眩しいですよね。

ただ、その感じって付き合いたてホヤホヤのカップルだからこそで、10代~20代前半くらいの子だって、ふと我に返ったとき「何恥ずかしいことしてるんだろ!」ってなると思ったんですよね。今まで私が想像していた【大人の恋愛】って、もっとわかりやすくないというか、楽しいとすら感じないくらい一緒にいるのが当たり前であるような関係だったんですけど。でも大人になっても、恋をすればキラキラするし、ふと我に返って恥ずかしくなったりするんだろうなって。それで<いつの日か 大人の恋愛なんて 想像した でも結局 いまと変わらないのかも>というフレーズを入れたんです。

―― また、歌のなかでは心の中の“好き”という気持ちが<ため息>で溢れたり、涙に変わりそうになったりしておりますが、櫻子さんも想いを直接、相手に伝えるよりは自分の胸の内に溜め込むタイプでしょうか。

いや、私は多分、発散型です(笑)。女友達にも「大好き!」とかすぐ言いますし。好きだけじゃなくて、嫌なことがあってもすぐに喋ります。好きだという気持ちが溢れちゃいそうになる気持ちには共感できるけど、個人的には溜め込むというより、どんどん言葉にするタイプだと思いますね。

―― そして、10曲目に収録されている初の失恋ソング「さよなら」は水野良樹さんが作詞作曲。この歌は櫻子さんにとっても、このアルバムにとっても、大きな存在になったのではないでしょうか。

本当にそのとおりです。水野さんは私のお芝居も観てくださっているので、私よりも私のことを知ってくれている気がしています。歌詞は、演劇のようでもあり、初めて聴いた瞬間に「すごい…」と思いましたし、ライブで歌うときも結構、泣きそうになっていました。あとアルバムが出来上がる前、マスタリングで全曲を通して聴いたんですけど、この歌の前に「甘えてしまうんだよ」という新曲を入れたことで、「さよなら」と「甘えてしまうんだよ」の主人公が重なって聴こえたんですよ。ちょっと距離ができていたカップルが、別れちゃったのかなぁ…って。自分のなかでそう繋がって、また泣きそうになりましたね。

―― 「さよなら」には、冒頭のサビとラストのサビに<この恋は夢のように終わったの>というフレーズがありますが、同じ言葉なのにまったく響き方が違いますよね。

そうそう! 最初と最後で絶対に変わらなきゃいけないということは、かなり意識しました。この歌は悲しみから始まって、どんどん前向きになっていくというストーリー性があるからこそ、心のクレッシェンドを表現しなきゃなと。聴いてもらった方にも、最後は明るく前向きな気持ちになってほしいですね。

―― もしも櫻子さんがこの歌の主人公のような別れ方をしたら、すぐに前を向けると思いますか?それともわりと引きずりますか?

う~ん…。ツライけど…、私、結構、強い、はず(笑)。きっと悩むし、すごくもがき苦しむんだろうけど、意外と性格が本当に男っぽくて、男の人に女々しいなぁと思うことの方が多いくらいなんですよ。だからわりとサバッと進んでいける…と思います。きっと私のそういうところも、水野さんは読んでいたんじゃないかな(笑)。

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