「こいつは本気だ」って受け取ってもらえる歌を。

―― では、ここからは今作の新曲「All Of Us」についてお伺いしていきます。この曲はドラマ『警視庁・捜査一課長 season3』の主題歌ですが、どんなテーマを歌詞の核にしましたか?

松尾 主題歌を書くにあたり、まずドラマ側の方と話し合いをしたんですけど、そこで私は「どんな気持ちでこの作品を撮っていますか?」という質問をしたんですよ。そのときに答えていただいたのが「刑事モノで、結構いろんなストーリーがあるけれど、最終的には絶対にほっこり終わらせるようにしています」という言葉で。それから「観終わったすべての人が、今日は良い日だったな、明日も頑張るぞってドラマにしたい」と言ってくださって。それがすごく心に残ったんですね。そのとおりだと自分も思うわけです。明日もやるぞー!って思えるのは本当に素敵な夜だし、みんなに感じてほしい気持ちだって。だからこそ、この曲は普遍的な広い言葉で、歌詞を書こうと思いました。

―― その想いはサビの<今日が終わる頃 僕らは笑っていますように どうか 戦いながら生きる明日が晴れますように>というフレーズに表れていますね。シンプルでストレートなのに、歌声が魂に響きます。

亀本 たしかに!言葉としては普通のこと言っているのに。

松尾 ありがとうございます!やっぱり歌詞とメロディー、歌い方、声っていうものは一心同体だと思っているので、その要素がすべて合わさったときのミラクルをいつも探しているんです。だから今回も、こういうシンプルな言葉を使っているからこそ、よりそこは大事にしましたね。

―― また<隣にいる人々まで 自分事の様に思えるほど ちゃんと愛しながら生きてたい>というラストもキラーフレーズだと感じました。

松尾 近くにいる人のことをじっくり考える機会って、歌とか映画とか本がないとあんまりない気がして。とくに現代の人は、LINEとかですぐに繋がれる時代を生きているから。でも、肌に触れられるところにいてくれる人ってすごく信頼できるというか。誰かが自分に対して悪いことを言ってきたとしても、近くにいる<大事な人>が「あなたはそれでいいんだよ」って言ってくれればそれで大丈夫、みたいな気持ちってあるじゃないですか。そういう<隣にいる人々>を大事に思いたいということはドラマのメッセージでもあるし、私が生活のなかでも感じることなので、思いのままに歌詞にしましたね。自分の背中を押すためにも、こういう言葉を歌いたかった。

―― 先ほど亀本さんが、レミさんは「わかりやすくて単純なだけではない、何回聴いても深みのある歌詞をどんどん書けるようになっている」とおっしゃっていましたが、その変化は「All Of Us」の歌詞からも伝わってきますね。

photo_03です。

亀本 最近はなんかさ、パッと読んだときにスッとわかるような歌詞をレミさん意図的に書こうとしているよね。それは僕でもちゃんとわかるよ。どんどん進化してきていると思う。

松尾 うん、そこは意識してるね。でも全曲がわかりやすい歌詞でなくても良いとも思っていて、私の中には二つのパターンがあるんです。一つは、自分がすごく影響を受けている幻想文学みたいなもの。情景描写に重きを置いた歌詞ですね。その幻想文学の世界ってめちゃくちゃアンダーグラウンドで、読んでも意味がわからない作品が多いんですよ。

亀本 そうそう!僕、本を読んでも全然わからなかったもん。で?これ結末はどうなった?ってものが多い。でもさ、レミさんの書いた幻想文学的な曲を聴いていると、たとえば直接的に「あなたが好きだ」じゃなくても、何か愛情のニュアンスを感じるよ。今、僕が好きな子がいるとするじゃん? そういうときにはその子のことを勝手に結びつけて、自分の気持ちを重ねたりできるというか。そこが進化している気がする。

松尾 あ~そうだね。意味がわからない幻想的な歌詞のクオリティーもやっぱり高いものであるべきだと思っているからね。ロックって吐き出して、共有したり、共感したりするものだから、とにかく人に届く言葉を使いたいという気持ちは強いですね。あと亀が言う「パッと読んだときにスッとわかるような歌詞」が増えてきたのにも、大きなきっかけがありまして。

―― どんなきっかけなのでしょうか。

松尾 デビュー1枚目のアルバム制作に、いしわたり淳治さんがプロデューサーで入ってくださったんですけど、仕事の合間、一緒にコーヒーを飲みながら雑談をしたんですね。そのときに淳治さんが「僕は長く歌詞を書いてきたけど、最近わかったことがあるんだよね」っておっしゃったんです。それは<愛してる>という誰でも使える普通の言葉を歌うアーティストはいっぱいいるけれど、そのなかでも響く曲と響かない曲があって、その違いが何なのか、だって。

―― その答えは…。

松尾 淳治さん曰く「本気で歌っている歌なのか、歌わされている歌なのか、っていう魂の違い」だって。私はそのとき、淳治さんに「この言葉はカッコ悪いから使いたくない」とか「こっちのワードの方がカッコいい」とかそういう話をしていたんです。だけど「あぁ…カッコいい言葉とかカッコ悪い言葉なんてないんだなぁ」って思いました。どんな言葉であっても「こいつは本気だ」って受け取ってもらえる歌を歌えれば、歌詞の壁はなくなるなって。淳治さんとの会話でそう気づいてからは、あえて普通な言葉を使って、深い意味を感じさせる歌を作りたいって想いがより強くなりましたね。

―― なるほど。たとえば「All Of Us」ですと<外にはひどい魔物がいて 手を出して笑ってた>というわかりやすいワンフレーズからも、いろんなイメージが膨らみます。それこそドラマの刑事事件だったら“凶悪犯”を表しますし、現実にもモンスター○○などと呼ばれる人たちはいますし。

松尾 ですねぇ!ネットの世界でも、今の世の中ちょっとした発言でめちゃくちゃ叩いてくる人もいるし。学校とか会社に嫌な奴がいることもあるし。もしかしたら過去に囚われている自分自身が<ひどい魔物>であるかもしれないし。そういう敵とか、悪いものって、外に出ると絶対に存在するんですよね。だけどそんな全てを背負いながらも<隣にいる人々を 信じ愛しながら>生きてゆく循環の美しさを、この曲では伝えられたんじゃないかなって思います。

―― ちなみにお二人が身近なところで<ひどい魔物>だと感じた経験ってありますか?

松尾 めっちゃありますよ(笑)!たとえば…まぁ今は別に<魔物>とも思っていないんですけど、GLIM SPANKYを始めて上京して大学に通っていた頃、地元に帰ると、地元の人は「そんなの絶対に無理だ」みたいなことをやたら言ってきたりとか。

photo_04です。

亀本 それは魔物だよなー。

松尾 本当に。親の前で言ってくる奴とかいたし。「3ヵ月後には解散してるよ」とか言ってくるおっさんもいたし。それはもうマジで<ひどい>とか通り越して「なんじゃこの生物は」という気持ちでした。まぁ実はその人も本当はバンドをやりたくて、ミュージシャンを目指していたけど、ダメだったという人なんですよ。だからそれこそ歌詞にも書いてある<本当は弱い魔物>だったってことなんですよね。そういうのはたくさんありました。でも、そういう大人にさえも「良い音楽だ」って思わせてやれ!って気持ちで活動してきました。

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