まさかの月9主題歌、これ本当なんですかね(笑)

―― では、ここからはニューアルバム『エスカパレード』についてお伺いしていきます。まずアルバムタイトルは3曲目の「ESCAPADE」に通じているのでしょうか。

そうですね!この曲はアルバムコンセプトを一番体現していると思います。まず収録曲がすべて出揃ったときに、僕は良い意味で「同じバンドの曲!?」って感じたんですね。自分たちが思いのままに作った結果、こんなにふり幅が生まれて面白いなぁって。そして3曲目の「ESCAPADE」は【突飛な行動】とか【常軌を逸した行動】っていう意味がある言葉でして。アルバムも、僕らの“ESCAPADE”によって生まれた13曲たちが列をなしているという意味で『エスカパレード』という造語を作りました。

―― リード曲ではありませんが「ESCAPADE」がアルバムの隠れた芯になっているんですね。

歌詞もそうなんですよ。サビの<ありふれ過ぎた日常に新しくくれた曲がり角>ってフレーズも気に入っているし、しがらみの多い現代でも生きたいように生きることを大事にしてほしいというマインドで全13曲を作ったぜ!という想いを込めましたね。だから実は「ESCAPADE」が1曲目という案も考えたんですよ。でも、前作のミニアルバム『レポート』の最後に収録されているのが「Trailer」っていう曲で。「Trailer」には【映画の予告編】って意味もあるじゃないですか。なので、それを引き継ぐ形で今作の1曲目は「115万キロのフィルム」なんです。

―― なるほど…!そう繋がっていたんですね!そして、まさにその入り口の1曲目「115万キロのフィルム」大好きです。これぞヒゲダン!という楽曲だと感じました。

photo_01です。

それとても嬉しいです!去年からわりと打ち込みでエレクトリックな音楽を導入するようになって、ありがたいことにそれを音楽プロデューサーの蔦谷好位置さんに褒めていただけて『関ジャム』で紹介してもらえる機会もあって。だからヒゲダンはダンスチューンを得意としているバンドという認識の方もいらっしゃると思うんです。でもやっぱり「115万キロのフィルム」みたいな楽曲に、僕らが結成当初から大切にしているスタイルが根付いているんですよね。この歌は僕も大好きだし、なんか聴いていると地元で演奏していた曲なんじゃないかってくらいの懐かしさを感じたりもします。

―― この曲、結婚式にもピッタリですね。歌詞は二人の人生を映画になぞらえているわけですが<きっと10年後くらいにはキャストが増えたりもするんだろう>というフレーズなども、上手いなぁ…と。

いやぁ~…格好つけちゃいましたね(笑)。自分で聴いていても「キザだなぁ!もう!」って思います。なんか意外とウェディングソングを書くのが好きなんですかね、僕は。前も「犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!」って曲を結婚式とかで使ってもらえたら良いなぁと思って作ったし。気づいたら、引き続きこういう曲が出来ていたんですよね。あと最近、周りの友達もどんどん結婚していきますからねぇ。友達が結婚するたびに曲ができるんじゃないかな(笑)。ただ、この歌詞はすごく自分自身も共感する部分がたくさんあるんですよねぇ。

―― とくにどのフレーズがご自身の心境とリンクするのでしょうか。

もう歌い出しで<これから歌う曲の内容は僕の頭の中のこと>って言っちゃっているんで、ほとんど言いたい放題です(笑)。でもこう…とにかく自分は相手のことをすごく大切に思っていてずっと見ているし、どんな小さなことでもどんどん記憶していくよ、という気持ちをうまく言葉にできたなぁと思います。あと<今でも余裕なんてないのにこんな安月給じゃもうキャパオーバー!>とかもリアルだし(笑)。

―― 聡さんもそういう気持ちを好きな人に感じたことがありますか?

それこそ「安月給でごめん!」っていうのはありましたね(笑)。だって自分がもっと稼いでいれば、美味しいものを食べに行ったり、旅行したりできるわけじゃないですか。でもまぁそれは結構みんな思っていることだったりして。僕は社会人時代の友達とも定期的に会うので「最近どうなの?」って聞くと、本当に「いやぁ…給料がねぇ…」って返ってくることが多くて(笑)。あ~やっぱりそうかぁ…って。そういう等身大の話をくれる友達の存在っていうのも大事ですよねぇ。

―― 最も歌詞のインスピレーションを受けるのは、人との会話だったりするのかもしれませんね。

その通りですね。こないだもハッとしたんですけど、日曜に友達と遊びに行くと「あ~明日、仕事行きたくないなぁ」みたいなことを言っているわけですよ。でも音楽の仕事をやっていると、あまり平日も土日も関係ないじゃないですか。だから生きている世界のおおまかな縮図というか、時間軸が違うんだなぁって。でも聴いてくれている人たちの多くは、決まった曜日に仕事や学校を頑張っているし。もちろんそうでない人たちもいるし。そう考えると、いろんな人たちの話を聞いて、リアルに触れることができる機会って貴重だし、楽しいし、為になるなぁって思いますね。

―― 2曲目の「ノーダウト」はなんと、月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』の主題歌です。発表されたときは、ヒゲダンのイチファンとしてとても嬉しかったです。

ねぇ…!まさかの月9主題歌、これ本当なんですかね(笑)。まず最初にマネージャーからは「もしかしたらそういう話(月9主題歌の依頼)があるかもよ」って言われて。ドラマの内容をザッと聞いたんです。そうしたら“騙しゲーム”みたいな感じらしいと。で、僕の中のイメージで“騙しゲーム”というと、人間の欲望を扱うわけだし、シリアスな『闇金ウシジマくん』みたいな感じで(笑)。となると「それの主題歌…俺らか?」と思ったんですよ。それで最初は「いやー、ヒゲダンは違うでしょ」みたいな話をみんなでしていて。だけど、後日「なんと、決まりました!」と…。

―― おぉー!

まさに「おぉー!」でした。それで「どういうことなんだろう!?」と打ち合わせに行ったら、その『コンフィデンスマンJP』のチームはすごくコメディーを大事にしている方たちだったんです。そしてお会いしてから気づいたんですけど、脚本の古沢良太さんと企画の成河広明さんは、僕が大好きなドラマ『リーガルハイ』を手がけていた方々で。「マジ!?」と思いました。どうやら、主題歌を担当するアーティストを探しているときに偶然、僕らの「Tell Me Baby」という曲を見つけてくださったらしくて。何より、そういう方々からオファーをいただけたことが嬉しかったですね。歌詞はもちろんのこと、音作りの面を一緒に密にやっていきたいと言ってくださって、本当に刺激的な経験になりました。

―― 「ノーダウト」の歌詞を書く上での必須ワードなどはありましたか?

具体的なワードはとくになかったですね。唯一、長澤まさみさんが主演なので、少し女性目線の言葉を混ぜてほしいということは言われて、そこは意識して作りました。これまでヒゲダン楽曲で、女性目線の言葉尻って多分、ほぼ初めてじゃないかな…。なんか自分としては<私>って歌うのが恥ずかしくなってきちゃって(笑)。だから<怪しい おかしい それ以外なにも感じられない私>って韻を踏んだりもして。でも、こういうダンサブルな曲にとって韻を踏んで、気持ちいい語感作りをしていくことはすごく大事だなぁと実感しました。そこと楽曲に込めたメッセージ性を両立できたんじゃないかなと思います。

―― この歌詞で『コンフィデンスマンJP』の内容をもっとも表しているだろうと思う核のフレーズというといかがでしょう。

サビの一行目<Let me show 神様も ハマるほどの 大嘘を>かなぁ。このドラマは、欲にまみれて悪事を働いている人間達を、ダークヒーローである3人の詐欺師が懲らしめるという内容なんですね。そこにかなりコメディー要素を入れた、面白い作品になっているんです。そのマインドが、ヒゲダンのコンセプトにもビビッと来まして。それからサビのフレーズが生まれたときに「あぁ、この曲は主題歌でもあり、今の自分が歌いたいことでもあるな」と思いました。わりとここまでダークなテーマを歌ったことは初めてなので、歌詞で社会の不条理にちょっと針を刺すことができたことも嬉しかったですね。

―― そのダークさのなかに<そしてほんの少しの愛を>という言葉があるのも素敵です。

ドラマの台本を読ませていただいて、嘘は怒りの感情のみで吐くものじゃないんだなって思ったんですよね。騙されて、何かを失くしたことで、初めて大事なものに気づいたりもするわけで。それはその嘘に<ほんの少しの愛>があるからなんだろうなぁって。僕らもよく「やさしい嘘」とかって言うじゃないですか。だから、嘘を一方的に悪だと決め付けないように<そしてほんの少しの愛を>というフレーズを入れました。なんか…「ノーダウト」の歌詞作りはすごく自分のスキルに繋がったというか、この主題歌を担当できて本当に良かったです。

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