結婚はなかなか難しいと思っております。

―― まず、ニューアルバム『キラーチューンしかねえよ』は、引きの強いタイトルですねぇ。タイトルはいつ頃につけたのですか?

アルバムのための新曲制作を始めたのが去年の7月あたりで、10月くらいに自分用のデモが出来上がって、それを僕はお風呂で聴き返したんですよ。身体を洗いながら。そのときに「なんだよこれ…誰が作ったんだよ…もうまったく、キラーチューンしかねえよ!」って自画自賛したんです(笑)。そこで「あ、このタイトル良いんじゃないかな」って。やっぱりタイトルで引きがないと、手に取ってもらえないので大事ですよね。

―― ゴールデンボンバーの楽曲は“懇願系”の歌詞が多いような気がします。今回のアルバムですと<もう行かないで 行かないで>と祈る「燃やして!マイゴッド」もそうですし、「やさしくしてね」「水商売をやめてくれないか」「お前を-KOROSU-」「スイートマイルーム」にも懇願のフレーズが綴られていますよね。

あー!そうです。僕は何かに強く依存している人の気持ちを描くのが好きなんですよ。だから「燃やして!マイゴッド」でも主人公の女性が、ひとりの男性を神のように崇めて、周りが見えなくなるほど依存している姿をイメージしました。まぁ僕自身もやっぱりサラッとはしていないですからねぇ。性根がジメジメ、ネバネバしております。すごく引きずるし、基本ネガティブなんですよね。そうじゃないとこういう歌を書かないですもん(笑)。

―― また、収録曲にはいろんな物語が描かれておりますが、歌詞面でも先ほどの【90年代J-POP】を参考にするところはありますか?

いや、歌詞についてはあまりエキスをいただくようなことはないんですよね。でも実体験なのか妄想なのかというと…一番良いのは「50%ずつです」という答えだと思います。それは、僕の実体験だと思って楽しんで聴いている人もいれば、実体験だと言い切っちゃうと残念に思う人もいるから。どっちにも解釈できるのが最高なんじゃないかなと。ちなみにそれをback numberの清水依与吏くんに教えたら「あー!俺も今度からそれ使うわぁ!」って言ってました(笑)。でも正直、実体験の歌詞は減ってきたように思えますね。

photo_02です。

―― 今回のアルバムでもそうですか?

はい、おそらく一番リアルなのは「#CDが売れないこんな世の中じゃ」ですね。この歌詞は全て自分のことだと思います。でもたとえば「水商売をやめてくれないか」なんかは、感情的な“嫉妬心”は僕がよく抱く気持ちを描いているんですけど、この曲の主人公は貯金がないんですよ。だけど今の僕には確実に貯金がある(笑)。そこは現実との大きな違いになってしまうので、実体験ではありませんよね。そういった意味でも歌詞は、フィクションの物語とノンフィクションの感情、半分半分で出来ていると僕は思います。

―― ちなみに「スイートマイルーム」には<何処かでこの歌が流れて 君の耳に入るその日まで>というフレーズがありますが、この歌詞のように鬼龍院さんが特定の一人に向けて書いた歌はありますか?

ありますあります。というか感情面は主にそうですねぇ。だってこの歌詞にもあるけど、もう逢えなくて、電話もメールもできないような状況なわけですよ。そのときに想いを伝えられる手段として、曲を作ってリリースするというのが一つあるんじゃないかなぁと。でも…届いたら届いたで「本当は届かなくてもよかったのになぁ…」ってところもリアルに言うとあるんですけどね(笑)。それに元カノ全員が「私のこと?」って思っちゃうとヤダなぁ…。だからシンガーソングライターの恋人になんかなるもんじゃないですよ。別れたネタを曲にして音楽で食えていたりしたら、腹が立つでしょうしねぇ。なんか…変に恨まれて抗議されたりしないように僕も気をつけます…。

―― 実体験と言い切ってしまうと、そのようなデメリットもあるかもしれないわけですね…。

そういえば、ゴールデンボンバーがまだ売れる前にちょっと似た話がありまして…。僕の元カノでイニシャルが“M”の方がいたんですよ。で、たしか2回目のワンマンライブでうちの喜矢武が“美輪明宏”さんの格好でマラソンをしてゴールするというコントをしたんです。そこで僕は『Love for「M」』という短い曲をギャグで歌って、途中から「みなこ~みなこ~」って泣きだすというくだりがあり。ラストは「みなこって誰だよ!」「いや、(架空の)元カノだけど…」というオチだったんですけど、そのセットリストだけを発表したら、コントの一部始終を見ていないイニシャル“M”さんから激怒したメールが来ました…。

―― おぉ…「ふざけんな」と。

そう(笑)。お前ホントふざけんな、と。しかも仲が悪くなって別れることになったのに、なんでライブで歌ってんだ、ってすげー怒ってきて。結局、僕はもう「本当にそういうつもりはなかったんです。でも私が悪いんです。本当にすみません」とひたすら謝りまくるメールを送って、勘弁してもらいました。あのワンマンライブはたしか2008年とかだったから、もう10年も前の話なんですよね。今どうしているんでしょうねぇ…。…と、そんな過去もあります(笑)。

―― 貴重な話をありがとうございます(笑)。そういえば鬼龍院さんは『関ジャム』で【恋愛のどの局面を切り取るか問題】というものをback numberさんの歌詞で解説されていましたよね。出会い、付き合い始め、付き合っている後半、別れ。ご自身の楽曲だといかがでしょうか。

僕はほとんどが“別れ”なんですよ。失恋曲がたくさん。ポジティブなシチュエーションなんてほとんどありませんね。これはシンガーソングライターとしてのスタイルというか…。何故か哀しいとき、悔しいとき、嫉妬しているときにメロディーや歌詞が出てくるし、そういう感情を題材に作品が生まれてしまうので、その理由はもう自分でもよくわからないんです。どうして幸せなときに音楽が出てこないんだろう。

―― このアルバムだと「うれしいかなしい」は唯一、好きな人と一緒にいる設定ですが、そこでもやはり<いつかきっと終わるよどうせ>というフレーズが入っているんですよね。

そうなんですよ。「ずっと一緒だよね」みたいなのは…自分が思わないし、言わないからでしょうね。この曲を作詞していても、やっぱり迷いはありました。僕このタイプの歌詞、大丈夫かなぁって(笑)。まぁたくさん作っていく中で、こういう歌が少しはあってもいいかなぁと思ったので収録したんですけど。やっぱりこう…満たされると曲ができないということが自分でもわかっているんです。だから多分、恋愛してお付き合いして、幸せになってしまったら歌う必要がなくなるんですよねぇ。

―― そうすると、鬼龍院さんが音楽を続けていくためには当分、結婚とか難しそうですね…。

ですねぇ…いつかはしたいんですけどねぇ…。なので、すごくゲスな話をしてしまいますと、たとえ結婚したとしても、その嫁さんで曲を書くということは今のままの自分だとないかもしれないですよね。過去の哀しい思い出を解凍して作るか、もしくはスーパーのレジの女の子が可愛かったらその子で物思いに耽るか、というふうになってしまうんじゃないかなぁ。なんか…不倫とかも…するんでしょうねぇ…。

―― そんなことインタビューで予告なさってはダメです(笑)。

だから結婚はなかなか難しいと思っております(笑)。でも、何が正義かってどうなんでしょう…。曲が生めなくなることと、不倫をしてまで曲を書くことと、どちらが正しいかって訊かれたら、僕はわからないんですよね。たとえば友人のミュージシャンが結婚したとして、でも曲が浮かばない時に不倫をしてなんとか音楽を生み出したとしたら、僕はそれを責めることはできないです。なので…もしも不倫をしてバレてしまったときには、誠心誠意、すごく綺麗な土下座をします(笑)。



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