INTERVIEW
次のアルバムでは私のなかのR18を解禁したい。

では、ここからは新曲「残ってる」についてお伺いしていきます。普段はタイトルから曲を作り始めることが多いそうですが、今回はいかがでしたか?

吉澤:この曲は違いましたね。いつもはそのタイトルの言葉が好きで、自分のものにしたいという気持ちが先にあって作り始めるんですけど、今回は“朝帰りの女の子”っていう主人公の像が最初にありました。

その“朝帰りの女の子”はどんなきっかけから生まれたのですか?

吉澤:友達から「こないだ、いかにも朝帰りっぽい女の子がいたんだよね」って話を聞いたんです。その日は急に冷えて街の装いも変わったんだけど、その女の子だけは薄着で、まだ夏のなかにいたからわかったって。その話を聞いたら、その女の子の姿が浮かんできて、なんかこう…平日にサラリーマンの群れのなか、薄着でいる心もとなさだったり、残っているぬくもりだったり、もうその夜が終わってしまった寂しさだったり、そういうものを描きたくなって。

歌詞を読んでみると<あなたが残ってる からだの奥に残ってる>や<首筋につけた キスがじんわり>など、人肌感をすごく感じました。嘉代子さんにとって、こういう雰囲気の楽曲は新境地なのではないでしょうか。

吉澤:はい、今までテーマを決めてアルバムを作ってきたんですけど、私の中で線引きがあって。一枚目のアルバムの主人公たちにはドロドロした恋愛はさせない!みたいな。二枚目はちょっと大人になったからココまではいいかな、とか。三枚目はわりとどこまでも解放しつつ、まだ守ってほしい部分もあって。でも、次のアルバムでは私のなかのR18を解禁したいと思っているんです。それにはやっぱりシングル曲が繋がってきたりするので、この曲はその序章でもありますね。

なるほど…!それは次のアルバムもかなり楽しみです。でも“朝帰り”というと、幸せなイメージがあるのに、この主人公の女の子からはどうしてこんなに切なさが伝わってくるんですかね…。

吉澤:なんか…好きな人と一緒にいるときの「今このまま死んでしまえたらいいのに」とか「あのとき死んでおけばよかった」みたいな気持ち…。その言葉は過激に聞こえますけど、封じ込めておきたい幸せってあって、でも時間は絶対に流れていってしまうんですよね。私はそれに対する寂しさが強いから、きっと曲にも表れているんだと思います。

photo_02です。

そもそも手放しで「幸せ!」という楽曲自体が少ないですか?

吉澤:そう。だから私には、結婚式に向いている曲がほとんどないんです。友達とかにも「結婚式で吉澤嘉代子の曲を流したいんだけど、何がいいかな?」とか言われるんですけど…。唯一「ラブラブ」っていう曲があって、それだけはオススメできます。だけど他はフラれちゃったり、別れちゃったりするんですよね。縁起が悪い…。

ジャケット写真は嘉代子さんの後頭部ですが、このアートワークには「楽曲を聴いた人が主人公になってほしい。その人の恋を投影してもらえたら」という想いがあるんですよね。ちなみに、嘉代子さんご自身の恋も投影されていますか?

吉澤:投影…されていますね。ただ、本当に気持ちの部分だけ。朝帰りの女の子の主人公にちょっと自分を重ねて曲を書いたというか。…でも、私の曲は難しいんですよね。いつも、どこまでインタビューでお話しようかなって思うんです。みんなに私を想像して聴いてもらっちゃうと、私にとってはそれがちょっと寂しいなって思ったりして。私が自分をこの曲に投影したように、みんなも自分の恋を投影して聴いてもらいたいなと思っています。

「残ってる」のなかでとくにお気に入りのフレーズはありますか?

吉澤:すごく好きなところは<駐輪場で鍵を探すとき かき氷いろのネイルが剥げていた>っていうところですかね。私は結構、自転車で移動することも多いんですけど、駐輪場ってふと一人になるような、自分だけの時間な気がするんです。その場所で、鍵を探していたら、ネイルが剥げていて…。カキ氷色のネイルってどんな色だって思うんですけど、なんか弾けるキラキラしたものが少し色あせていることに気づく瞬間のやるせない感じ、一人ぼっちな感じが描けたかな、と思います。



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