INTERVIEW
初めて“弱い私”というものを書きました。

では、ここからはその運命に反撃するためのニューシングルについてお伺いしていきます。まず昨年に配信リリースされた「灯台」以外はどのような順で生まれたのでしょうか。

黒木:「解放区への旅」はもう休業に入ってからすぐの、まだギリギリ声が出ていた頃に原型が生まれました。でもそこから歌詞とかかなり書き直したし、レコーディングも結構あとだったんですけど。カップリングの「火の鳥」と「ブルー」は、だいぶ回復してから、同じ期間に作りましたね。だから、休業したこの一年間の心の段階がそのままシングルになっている感覚です。

photo_02です。

本当に綴られている歌詞がドキュメントのように感じられました。

黒木:そうそう。「解放区への旅」は、今まで自分が追い求めてきた“強い女”という像が、休業したことで進化して戻ってくるという気持ちで書いているし、「火の鳥」はこういうツライ目に遭わせた運命を許さんぞ!という怒りを書いているし、「ブルー」は初めて“弱い私”というものを書きました。これまでって、自分の落ち込んでいるところとか弱音を結構、無視してきたんですよ。弱くないもん!って意地っ張りになるというか。

「火の鳥」には<泣き明かした瞼>、「ブルー」には<少し泣いたらまた明日>というフレーズがありますが、たしかに渚さんの楽曲で“涙”というものが描かれている歌詞って、これまでほとんどなかったですよね。

黒木:しかも、妄想じゃなくて主人公が私自身ですもんね。もう本当にイヤというほど自分の弱いところを実感したから。今まではそういう面を見せるのが恥ずかしかったんですよ。強い女って、カッコいいし美しいじゃないですか。それが私の美学で、そういう女性に憧れてきたからこそ「涙なんて武士道に反する!」ぐらいの感覚だったんです(笑)。だけど休業して、弱さと向き合って答えを出すことで上向きになることができて。だからこそ、泣くことはカッコ悪いものじゃないなって思ったし、あの日の涙が曲になれば結果オーライじゃん!って気持ちにもなれました。

渚さんの歌に描かれ続けてきた“強い女”のイメージの根本となる方はいらっしゃるんですか?

黒木:たとえば「革命」って曲のテーマとして描いた“ジャンヌ・ダルク ”もそうですし、私の周りにいる女性って結構、強い人ばっかりなんですよ。母しかり、友達しかり。そういうハキハキして気持ちの良い女の人が周りに多いから、自然と自分もそんな存在になりたいなぁって憧れるようになったんだと思います。

その“強い女”が進化して戻ってきた「解放区への旅」は、もうイントロから“音楽ができる!”という喜びがひしひしと伝わってきます。これが<解放区>へ飛び出た感覚なんでしょうかね。

黒木:なんというか…パッカーン!ってなる瞬間の感覚だと思っているんです(笑)。歌詞にあるように<笑われた夢物語や情熱>のために<馬鹿になる覚悟を決めて>先へ走ってゆくみたいな。私もまさに今、その爽快で気持ちイイ感じで復活してゆこうとしていて、解放区へパッカーン!って開いたんですよね。

ただ、歌詞の冒頭に綴られている<孤独は宇宙だ 真空で息もまともに吸えない>というフレーズは苦し気で、休業中の渚さんの心境が伝わってくるようでもあります。

黒木:これはダークサイドにいた頃の私の気持ちですねぇ。実は、声が出なくなった4日目くらいに、夢から音が消えたんですよ。そのときに「私どんどん人間から遠ざかっている」とか思って、この孤独は宇宙みたいだって感じました。その感覚から最初の一節が出てきましたね。でも、ふとした瞬間に感じる寂しさって、もともと自分の中にあるものでもあって。それを楽しむことによって歌が発生することも多いんです。だから、私にとって孤独は素敵なことかもしれません。

孤独が素敵…。だから“黒木渚”楽曲には、孤独感や孤高な姿が描かれているものが多いのでしょうか。

黒木:そう。なんか“みんな一緒”とかキレイゴトは歌えない。もちろん大切な人たちは周りにいるんだけど、絶対に最後の最後でわかりあえない部分、溝みたいなところがあるというのは、誰だってわかっているわけだから。あつかましく希望は歌わない。自分が感じたままのことを歌っていくというのは、ずっと貫いていることですね。

また、「解放区への旅」には<今を生きる>、「火の鳥」には<強烈に生きた日々>、「ブルー」には<体は生きているのに>といったフレーズがありますが、いずれの曲もこの“生きる”という言葉がキーワードになっているんですね。

黒木:やっぱり私にとって、声を奪われるって、命を奪われることと同等なんですよ。だから、休業中は「声なしで生きている意味あるかな…」みたいなところまで考えたりもしました。でも一方で、まだ心臓が動いていたり、気持ちは折れていなかったりということを改めて感じたし、だって生きているもん!という開き直りもしました。そういう実体験から感じた“生きること”に対するいろんな気持ちが込められていますね。

今おっしゃったこと、まさに「ブルー」に綴られている<体は生きているのに 気まぐれに去ってった私の命 心はまだ逃げない 悲しみよかかってこい>ですね。

黒木:ホントそのまんまなんです。同じように“抜け殻”みたいになっている人って結構いるんじゃないかな。目指していたものがあったけれど、何かに阻まれて、それが叶わなくなったりして。あと、ヘアメイクさんにこの曲を聴いてもらったら、号泣していて。「なんで?」って聞いたら、「子育てがツラくて」って言っていたんですよ。可愛い赤ちゃんを抱いて、ほっこり癒される瞬間もあって、周りからは幸せそうに見えるかもしれないけど、めっちゃツライんやと…。でも「この孤独をわかってくれる人はいない。その気持ちを歌ってもらって嬉しかった」って。聴く人によっては子育ての歌でもあるんだなぁって思ったし、この「ブルー」って曲ができて本当に良かったって感じました。



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