第67回 欅坂46「サイレントマジョリティー」
photo_01です。 2016年4月6日発売
 さて今月は欅坂46のデビュー曲「サイレントマジョリティー」を。この作品といえば、細かく激しい動きが特徴の、ダンス・パフォーマンスとともに記憶されている人も多いだろう。でも、歌詞だけ眺めてみても、非常に“来る”ものがある楽曲だ。実は今回、聴く人のジェネレーションにより印象が変化する「風に吹かれても」にしようか悩んだけど、ここはインパクトも重視して、こちらに。

“声なき声”という意思表示

 そもそも“サイレントマジョリティー”なんてゴツゴツした言葉を、歌のタイトルに持ってくるあたりが大胆だ。しかし我々は、これまでも数多く、“大胆”をポピュラリティへと転換し続けてきた秋元康マジックを体験してきたのだった。

この言葉、似たニュアンスとして、昭和の時代に使われたのが“声なき声”という表現だった。政治の話になっちゃうが、安倍晋三さんのお祖父さんの岸信介さんが総理大臣だった頃、安保闘争が起こり、国会をデモ隊が包囲する。その時、岸さんは反対の立場の人間がいることは認めつつ、その他大勢の“声なき声”を「私は聞きたい」と、そんな発言をしたそうだ。

選挙権年齢を20歳から18歳に引き下げる法案が2016年に可決し、実際に18歳が投票所に赴いたのが2017年だった。「サイレントマジョリティー」という歌は、そのあたりのご時世も浮かべつつ、タイミングをみてリリースされたものだったかもしれない。18歳、ということで言うなら、彼らに向かって「選挙に行こうよ」と呼び掛ける歌、という解釈もできた。もちろん実際には、もっと幅広い年齢層がターゲットだったのだろうが…。

初期のRCサクセションに似たところも

 “サイレントマジョリティー”とは“声なき声”ではあるんだろうけど、具体的な意思表示ではないから、どうとでも受け取られる。この歌の歌詞にも[どこかの国の大統領]が登場し、さらに[声を上げない者たちは 賛成していると…]という表現が出てくる。“声なき声”は様々に解釈され、時には為政者に利用されるのだ。マイナス・イメージの言葉でもある。さらに別の言葉に置換えるなら、“烏合の衆”、だ。

初期のRCサクセションのオリジナルに“烏合の衆”をもじった「シュー」という歌がある。[一人じゃ何もできない]人間を、たまには[一人で何かやってみろよ]と鼓舞する内容である。そのあたり、欅坂46の歌も、同質のメッセージを発している。「サイレントマジョリティー」という歌は、[群れの中に紛れる]のではなく、[誰もいない道]を進むことを呼び掛けるのだから。そう。一緒だ。個性を持ち、自分らしく生きなさい。それがこの歌の主なメッセージなのだから。

この人の背中には目がついている?

 まだまだ興味深い表現がある。突然、[先行く人]が振り返って[列を乱すな]と[ルールを説く]という部分である。最初、ちょっと違和感があった。というのも、先行く人、しかも、列を成していたなら、なぜこの人に列の乱れが“見えた”のだろう? 背中に目がついていた? ただ、[その目は死んでいる]。どういうことだろうか。この歌には、自分達より上のジェネレーション、もっとハッキリいえば、大人達を拒絶しているところがある。そもそも自分達のことを“サイレントマジョリティー”呼ばわりしたのも大人達だろう。そして、[列を乱すな]と言い放ったのも同じ。

ここで改めて、[先行く人]が振り返って[列を乱すな]と[ルールを説く]という歌詞を噛みしめてみたい。おそらく、彼らは列の乱れが“見えた”わけじゃなく、そのようなことを言っておけば、無難にコトは納まるだろうと思ったに違いない。なので[目は死んで]いたのだ。

[夢を見ること]は[時には孤独]

 貴方たちの時代がやってくるんだから、臆病に群れてないで、自分の思った道を進みなさいよーー。この歌が、全体として言いたいことは理解し易い。ただ、細かく見てみると、引っかかる部分もある。例えばこの表現。

[君は君らしく]。よくよく考えたら?マークが浮かぶ。肝心な“らしく”の中身…、それは教えてくれないからである。しかしその関連として、実に心に響く、この表現をフォローして余りある、特別なフレーズも盛り込まれている。

[夢を見ること]は、[時には孤独]、というあたりだ。“夢”と“孤独”は、いっけん真逆のポジションに思えなくもない。夢のために、なぜ孤独と付き合わなければならないのか? 最後にこのあたりを考えてみることにした。

この歌の場合、[夢を見ること]とは、夢へと辿り着くまでの“過程”のことを言ってるようだ。確かに夢へ向かう時、それを実現させようとする時、人は脇目も振らず、手応えなどない宙ぶらりんな気分でも、努力し続ける必要がある。つまりは孤独。さっきも紹介した[誰もいない道]という表現は、このことを言っている。誰もいないなら、心細い。引き返したくなる。でも、何かを成した人は、必ずと言っていいほど、孤独を友とした時期を経験している。

孤独という言葉にまつわる名言・格言は、非常に多い。誰が言った忘れたけど、僕が好きなのはこれ。“孤独はすべてを連れてくる”。2018年も、宜しくお願いいたします。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
プロフィール 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

音楽を紹介する職業に就いて早ウン十年。でも新たな才能は、今日も産声をあげます。そんな彼らと巡り会えれば、己の感性も更新され続けるのです。
さて2018年。1回目の「言葉の魔法」です。紅白歌合戦でも非常に話題となった、欅坂46の登場です。でも彼女たちのデビュー曲「サイレントマジョリティー」は、励まされてもイヤな気がしない、新しい形の「励ましソング」と言えそうです。そして今年の音楽シーン、どんな展開を見せるのでしょう。多くの大物アーティストが周年を迎える今年。既にその話題は囁かれてますが、僕が探しているのは、フェスでトリを務めたくらいじゃ満足しない、大物に取って代わるくらいの若いアーティストです。もちろん、「歌ネット」でどんな作品が多く検索されるのかにも注目です。