歌詞表現法に注目!
~フワッとスキル、空耳スキル、思想を組み込むスキル~

―― お三方の歌詞にはそれぞれどのようなカラー、特徴があると思いますか?

渡辺翔 主題歌の場合、僕の歌詞はわりとフワッと抽象的です。歌詞だけを見たら、何のことかわからないくらい薄い。想像の余地をたくさん残したいんですよ。聴いてくれる人はみんな、その作品のストーリーで感じるものがあるから、説明し過ぎない方がいいと思って。でも、ひとつ強いフレーズを入れることで、ふわっとした歌詞をキュッと締めたり。あとはさっきも言った“女々しい”ということはよく言われますね。だから女性の歌詞のほうが得意で、キャラソンでもすごく女子っぽいもののほうが書きやすい。

RUCCA 作曲もできる作詞家ってそこが強いですよね。フワッと書くって、誰にでも出来そうで、実はかなり難しいことなんですよ。僕は苦手だと思う。逆に、情報量の多さで勝負しているみたいなところがあるから、そこが翔君の作風と真逆な感じしますね。hotaru君も情報量多いほうでしょ?

hotaru はい、僕はめっちゃ詰め込みます(笑)。あとリアルな話、専業作詞家だと歌詞だけを提出するので「こんなふわっとした感じでよかったのかな?」とか「これ最悪、作詞者を変えられるんじゃないか?」とか不安があるんですよ。だからバチッとテーマに当てて、できるだけ情報を詰め込む。フワッとさせる余裕は、作詞作曲の両方をやっている翔さんならではなのかなって。

渡辺翔 そうかぁ。戦い系の作品の主題歌が多いこともあるのかな。戦い系ってカッコいいのに、関連する言葉をピックアップして歌にすると、野暮ったくなっちゃうんですよ。例えば<剣(つるぎ)>とか。使い方が難しい。そうするとより心情に寄っていくから、抽象的な歌詞になるんだと思います。あと、作詞作曲の両方をやっているという面だと、よく言われるのが「歌詞を切るタイミングが変わっている」ということですね。たとえば『魔法少女まどか☆マギカ』オープニングテーマの「コネクト」なんかは“タララララ”で始まるんですけど、普通なら“いつまでも”とか入れるところを、僕は<交わした約束>の“交わしたや”で切っていて“交わしたや/くそく”という区切りになっているんですよ。

RUCCA あー、それね!絶対その区切りだからこそ良かったんだよ。だけど作詞家がやったら「メロにハマッてねぇ!」って言われているかもしれない(笑)。やっぱり作詞作曲どちらもできる強みだと思いますよ。専業作詞家はなかなか勇気がいるから、手を出せない。やってみようかなって挑戦しても、そう簡単に上手くいかない。それが翔君の歌詞の一番の個性なんじゃないですかね。

photo_01です。

渡辺翔 RUCCAさんは、外国人作曲家のデモに入っている英詞の仮歌を、日本語詞にしてもまったく勢いを殺さない歌詞を書くイメージがあるな。普通はやぼったくなったり、かっこ悪くなったりするのに。前に「仮歌が英語のデモが送られてくると、母音を合わせる」って聞いたんだけど。

RUCCA フックになるところは全部合わせていますね。子音もなるべく。ジャニーズ楽曲はそこで評価してもらえたところがあります。なんかね、空耳で聴こえてくるんですよ。こう書いてくれって英詞が言っているというか。で、外国人の作曲家の刻み込んでいるようなメロディーには音読みの漢字がハマりやすい。一番わかりやすい例が“南無妙法蓮華経”ですかね。熟語は破裂音やカ行が多いのでよく使います。ただ、熟語っていろんな意味を含むから、それを並べると情報量がめっちゃ多くなるんですよね。逆に、ひらがなの<~する>みたいな言葉は流れちゃう。だから着地には使うけど、音を当てるときには使えません。

hotaru RUCCAさんが一番すごいのは、その凝縮していくスキルですね。専業作詞家としても特殊スキルでなかなかマネできない。単語と単語のつながりでパッと見は意味がわからなくても、ちゃんと成立している楽曲を作り上げるのは難しいですよ。今それをRUCCAさん以上にできている人は他にいないと思います。僕の歌詞は、そういう技というより、わりと思想が強いほうなんだろうなと思います。

―― 自分の中の伝えたいメッセージ性が強いということでしょうか。

hotaru そうですね。アーティスト系というとちょっと語弊がありますけど、この歌詞を通して自分は何を言いたいのか、この歌詞で自分が納得できるのか、ということを大事にしているところが強いです。その思想をちゃんと仕事の中に組み込むということはめちゃくちゃこだわっていますね。

RUCCA hotaruくんはそういうタイプだったのか!それはたしかにアーティスト系だね。だからこそ“MYTH & ROID”とかの歌詞を見ているとね、僕みたいなちょっとしたJ-POP英語+αで限界な英詞とは全然違うなって感心した。日本語をわざと英語っぽく歌わせているところなんかも、本当にちゃんとそう聴こえるし。英詞で伝えられるメッセージの深さは、自分にはマネできないところだと思いますね。

~使わないっていうか、使えない言葉が多いから…~

―― みなさんは使わないように意識している言葉ってありますか?

渡辺翔 そういえば<俺>と<お前>っていう言葉で歌詞を書いたことってまだないな。オラオラ系の。プロでもさすがに自分の中にゼロのものって書けないよね。いくら物語を読もうが、主人公の思想までは自分のものにできないから。

RUCCA 僕もそうですね。一人称二人称って設定を浮き彫りにするものなので、やっぱり無難に<僕>と<君>が一番多くなります。あと、使わないとはまた違うけど、NGワードって結構あって。たとえば具体的に何かの生きものを<殺す>とは書けないんですよ。でも<息を殺す>なら大丈夫とか、微妙なラインがあるじゃないですか。で、前に“AAA”の末吉くんから「怒られないレベルで、最大限にエグくしてくれ」ってオーダーをいただいて。そのときに書いた歌詞はかなり危なかったですね。

―― 何という曲ですか?

RUCCA 末吉君が“Shuta Sueyoshi”としてソロデビューをしたときの「to.ri.ca.go」です。簡単に言うと“バイオハザード”みたいな感じ。なんか<国際線ターミナル 今更もう閉鎖しても手遅れさ>とか<リビングデッド残虐中>とか<マスターベーション>とか、際どい歌詞を書いたんですよ。<惨殺>じゃなくて<残虐>だからギリギリ行けるか…?とか、めちゃくちゃ考えましたね。

hotaru 残虐系もそうだし、エロもそうだし、使わないっていうか使えない言葉が多いから結構もどかしい思いはしますよね。あと、アーティストが使う分には問題ないけど、作詞家は使っちゃいけないっていうゾーンがあって。今パッと思いつくのだと、僕の好きな“きのこ帝国”の「クロノスタシス」って曲に<350mlの缶ビール買って きみと夜の散歩>って歌詞があるんですけど、僕らは<350mlの缶ビール>って簡単には使えないなって。

渡辺翔 そうだねぇ。たしかに使えない。すごい世界観でるんだけどね。

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hotaru 作詞家ってそこらへんに踏み込むのが怖いんですよね。アーティストの私生活に繋がっちゃうから。依頼でシチュエーションが指定されていたらいいけど、そうじゃないと<東京>ですらちょっと怖い。だから東京をイメージさせるような都会感のあるフレーズで誤魔化したりするんだけど、そこで<東京>って書けるなら全然雰囲気が変わるのになぁと思ったりします。あとミスチルの「光の射す方へ」という曲もすごく好きなんだけど<独りきり情熱を振り回す バッティングセンター>の<バッティングセンター>とかも作詞家には書けないかなぁ。

RUCCA ミスチルだと「デルモ」とかも今の時代、作詞家は叩かれそうで怖いよね。求められる範疇を考えちゃう。これはもう職業病だなぁ。商標登録されているものにも敏感です。過去の例なんですけど、たしか“アイドリング!!!”に「レモンドロップ」って歌詞を提供したときに<コーラ>って書きたくて、レコード会社の方に調べてもらったら<コカコーラ>もダメだし<コーク>もダメだけど<コーラ>はOKだったんですよ。

渡辺翔 そういえば僕は<JOINT>と連呼する歌詞を書いて、それが使われなかったことがあるんですよ。その理由は<JOINT>って言葉がわりと“大麻”って意味で通じちゃうからみたいで。「アイドルの曲なのでちょっとNGで…」って言われたことがありました。

hotaru そこらへんのボーダーラインって、誰が何を決めているわけでもないんですよね。もう各作詞家がそれぞれ空気を読んで「おそらくコレは引っかかるだろうな」って自己判断をしないといけなくて。

RUCCA そうそう。それを自分でやっておかないと、ディレクターさんでもあんまりそういうデリケートな言葉に関する意識がない人って多かったりするから。そのまま通っちゃったときが一番怖い。しかも、いざというとき守ってもらえるわけじゃないからね…(笑)。

hotaru 自分の責任なんですよね。だから結局、気づくのも自分だし、言葉に一番詳しいのは自分だろ!って意識しておかないとダメですね。そうすると、自然と「不用意にリスクがあることはしないようにしよう」って思うんですよね。

~作詞家が提出したら「なんだそれ!」って文句を言われるフレーズ~
photo_01です。

―― では、作詞家だとあんまり求められない歌詞だけれど「あのアーティストのあのフレーズがすごい!」と思う曲はありますか?

RUCCA 僕はねぇ、amazarashiが好き。もし「amazarashiっぽくお願いします」と言われれば、作詞家はamazarashiもどきっぽい雰囲気の歌詞は作れると思うんですよ。でも、まず求められませんよね。あれはamazarashiの声だから良いわけで。あと“あいみょん”も歌詞がすげぇなぁって思います。だって「愛を伝えたいだとか」なんて出だしから<健康的な朝だな>ですよ!作詞家が提出したら「なんだそれ!」って文句を言われるフレーズかもしれないです。

hotaru 僕は吉澤嘉代子さんですね。『屋根裏獣』っていうアルバムを聴いて、全曲グッと来たんですけど、とくにそのなかの「ねえ中学生」っていう“私立恵比寿中学”とコラボしている曲が素晴らしくて。恋をしている二人を描いていて、恋をしている間は私たち中学生みたいだね、というようなハッピーな感じで進んでいくんですけど、最後にちょっとひねりがあるんですよね。結局、自分たちは<中学生>じゃなくて<大人になった>二人だから、そこで全て終わってしまう…みたいな。予定調和ではない終わり方で。キャッチーでありながら、ちゃんと落としていくというところが、詩人だなぁと思いました。めちゃくちゃ文学を感じる。松本隆さんも彼女を評価しているらしいんですけど、その理由がわかる歌詞ですね。

渡辺翔 僕はビジュアル系が中学の頃に大好きだったので、結構昔から過激な表現を好みますね。例えば“L'Arc~en~Ciel”のすごく攻撃的なんだけど、どこかお洒落に感じる言葉選びだったり“PIERROT”ってバンドのあくが強くてここじゃない非現実感を 歌った歌詞だったりには強く当時は魅かれていましたね。それまでJ-POPばっかり聴いていたから、触れたことのないような歌詞で。タイトルも「脳内モルヒネ」とか。そこらへんでいろんな非日常な歌詞を勝手に勉強していたんだと思います。


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