山本 ちなみに、固有名詞というと、その言葉の持つ“時代感”みたいなものって意識されますか?

水野 う~ん、なるべく時代感を持つ具体ワードには触れないようにしているかも。たとえば“電話”だって今はもう、ダイアルなんて回さないしねぇ…。

山本 僕は先日、どうしても“電話”を歌詞に入れたい曲があったんですけど、レコード会社の人に「ここの“電話”というワードを“LINE”に直してほしい」と言われまして…。

水野高橋 うわぁ…!

水野 でも“LINE”も今これだけ普遍的なものになっているけど、この先わからないじゃないですか。15年後には全く違うものになっている可能性だってあるし、もう使われてないかもしれないし。たとえば「ポケベルが鳴らなくて」って曲も、あの時代ピンポイントになっちゃったから。

高橋 ただ、なんか可愛いですよね、ポケベルってワード(笑)。もちろん今、ポケベルなんて使わないけど、逆に良いなぁって。だから現代のJ-POPで“電話のダイアルを回す”とかいう表現をするのも私はアリじゃないかなぁって思う。

水野 ビンテージみたいな感じだ(笑)。うん、それも面白いなぁ。

山本 あと、時代感のある固有名詞を入れることで「自分の頃はこうだったよね」って言い合えるのも面白いのかも。さっきの“LINE”も「自分の頃は電話だったけど」って人と、「私はポケベルだった」って人がいて、それがまた会話になったりとか。

水野 松任谷由実さんの「卒業写真」とかも<悲しいことがあると 開く皮の表紙>って始まるけど、別に<皮の表紙>でなくても良かったんですよね。今はあんまり皮の表紙なんてないだろうし、僕のは多分プラスチックだし(笑)。だけど、聴いている側はそれぞれの卒業アルバムの表紙を想像して聴くから、歌詞には共感できるんでしょうね。しかも、おっしゃるとおり「自分の頃はこうだったよね」って話にもなるから、具体的なワードにはそんなメリットもあるんだろうなぁ。

山本 そういう意味では、卒業ソングって絶対に昔を思い出す曲になるわけじゃないですか。だから、あえてその時代特有の具体ワードを入れてしまうという描き方もアリなのかなぁと思うんです。でもまだそういう楽曲があまりないから、誰もが共感できるような抽象的な曲がランキングの上位に並んでいるんでしょうね。

高橋 でも私、いわゆる卒業ソングと言われている曲って、そもそも卒業式を目がけて作られてないんじゃないかって思っていて。ランキングをずっと見ていくと、ほとんどが“友情”とか“仲間”をテーマにして歌ったら、結果的にたまたま卒業ソングと言われだしたという、自然な流れである曲が多いんじゃないかなぁって。flumpoolの「証」も、Kiroroの「Best Friend」も。

水野 たしかに!ゆず「栄光の架橋」なんて、オリンピックの曲だしね。秦基博「ひまわりの約束」もドラえもんの歌。単純に「良いなぁ~」って曲が、卒業ソングにも選ばれているって気がしますね。

山本 作り手が卒業式に歌ってほしいんじゃなくて、聴き手が卒業式に歌いたくなるものがこのランキングに表れているんでしょうね。もし、実際に式で嫌々じゃなく、歌いたい歌を歌えてもらえているのだとしたら、それはすごく良いことだなぁと思いますね。

高橋 そういえば、女性アイドルの曲って、1曲もランクインしていないんですよね。たとえばAKB48には「桜の木になろう」って曲があって、その歌詞が素晴らしいんですよ。まさに卒業式をめがけて作ってるやん!ってくらい。でも意外と、卒業式で歌う楽曲には選ばれてないんだと思う。なんでやろ…。卒業式にアイドルの曲を生徒全員で歌うって…校長先生からOKが出ないのかなぁ(笑)。

水野 アイドルってジャンルの難しさはありますよね。アーティストのカラーは、やっぱり強く出ちゃうものだから、それ抜きでは楽曲を聴けないということなんですかね。AKB48はあの朝ドラの…「365日の紙飛行機」とかも良いと思うけど、なかなか学校の合唱では歌われないのかな?

高橋 あー、歌われそうですよね!でもどうなんやろ。歌う曲をクラスや学年の多数決で決めるとなると、女性アイドルの曲を歌うって言うのは、男子より女子の方が反対しそうな気がする(笑)。

水野 うん、多数決の時の微妙な空気ってあるからねぇ。中学生とか高校生ってめっちゃ空気読むから、僕らなんかよりずっと敏感ですよ。なんとなくみんなが良いって思ってそうな曲に手を挙げなきゃとか、それこそイケてるグループの子が提案した楽曲に寄せていったりとか。

山本 たしかに…。そう考えると、アイドルなんかとくにそうだけど、卒業式に歌ってほしい!って感じで狙って作ったら、むしろダメなのかもしれないですね。みんながそれに賛同してくれるかどうかが大切であるというか。

水野 いやぁ…曲の良さだけじゃなくて、そういういろんなことが絡んでくるから、音楽って面白いし、難しいっ!

山本 では、今までのお話を踏まえて、お二人が今後、もし卒業ソングを作られるとしたら、どんなものがあり得ると思いますか? たとえば、ここに新しい女性アイドルがいるとします。その方に卒業ソングを提供するとしたら…。

水野 うわー、難しい(笑)!単純に面白いところに寄せるならば…、卒業ソングって基本的に振り返ることからスタートするじゃないですか。過去の軸からスタートして、物語を進めていって、現在があって、そこから未来を見つめているという歌詞が多いと思うんですよ。なので“過去を一切見ない卒業ソング”とか。あと、某アイドルだと禁止されていることもおそらく多くありますよね。そこから解放されるって、二十歳そこそこの女の子にとってすごく大きなことだと思うので、その気持ちをめっちゃ明るく歌っちゃうとか。「合コンしたーい!」みたいな(笑)。

高橋 あ~(笑)。もう魂の叫びですね。それはその子が本当にアイドルを卒業するときだったら歌えるね(笑)。

山本 たしかに「合コンしたーい!」が卒業ソングとして成立するのは、女性アイドルならではですね。学校の卒業式では“合コンすること”が卒業にはならないから(笑)。

水野 だから、そういう本音だけを歌っていいのであれば「実はずっと苦手なファンの人がいて、握手会でいつもイヤだった」とか言うのも、ファンの人にとってはすごく厳しいけれど、新しくはありますよね。最後に「ごめんね!今までありがとう!」っていって卒業していくみたいな。それは良くないのかもしれないけど(笑)、まぁ面白さの可能性としてはアリだなって。

山本 アイドルは卒業のあり方が違うということを表しているのが面白いですね。高橋さんはいかがですか?

高橋 なんか“懐かしさ”から切り離した曲を書きたいかなぁ。どうしてもノスタルジーのところがちやほやされちゃうから、そこじゃない角度から書けたら面白いだろうなって。

水野 うんうん、大人が書くとやっぱりノスタルジーに酔っちゃうから。

高橋 そうなんですよ。でも思い出してみると、そのときの気持ちって、全っ然そんなことないよ。まったく戻りたいとか思ってなくて、卒業して「よっしゃ!」って嬉しさ全開やったから(笑)。だからそんな曲を書けたらいい。

水野 現代的に言えば、もう今、僕めっちゃ「いいね!」押してます(笑)。

高橋 「もうあいつに会わなくていいんだ!」とかね。タイトルは『待ってました卒業』で(笑)。

水野 うわぁー、めっちゃいいなそれ。書こ。

山本 その『待ってました卒業』がいつか卒業ソングランキングの上位に、突如現れるのが楽しみです(笑)。


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