黒いカバン

黒いカバンをぶらさげて歩いていると
おまわりさんに 呼びとめられた
おーいちょっとと彼は言うのだった
おいちょっとというあいさつを
くれたことがなかったので
むかっときたのです
すると おまわりは
そのカバンをみせてもらいたいといって
さも それが当然なような 顔をした
見せたくなければ見せない
これは当然なのであるから
見せたくないですね というと
おまえは誰だというので
ぼくは人間ですよ と答えたのです
すると おまえは と大きな声でいうので
あなたのお名前は と尋ねると
それはいえない という
それは変ですね
人は会ったなら まして初対面なら
お互に名のるのが最低の礼儀でしょう
というと
おまわりは たてつくのかというので
礼儀知らず というと
なに!とおこったが
思いなおしたように彼は
まあ今度だけは許してやる などといったので
そこでぼくも
今度だけは許してやるといってやった
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