女優

薔薇を 一輪 唇に
恋に 身を灼く カルメン役も
化粧 おとせば 楽屋の鏡
生きていながら 死んでいる
うつろな 女の 顔が浮く

罪に 追われた カチューシャも
愛の両手に 抱かれたものを
花の 日比谷の帝国劇場
恋と 舞台に 生きること
教えた あなたは もういない

疲れましたわ なにもかも
眠りたいのよ あなたのそばで
大正八年 一月五日
女優 須磨子の 幕切れは
すこし 濃目の 死化粧
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