湯情の宿

伊豆は寝(ね)もせず 朝(あさ)になる
そんな昔が 懐(なつ)かしい
次の逢(お)う瀬(せ)も 枕の下に
秘めて別れの 夜は更ける

雨がほどいた 恋の帯
結び直して 立つ辛(つ)らさ
幼なじみの 寝姿山(ねすがたやま)も
どうせわかっちゃ くれなかろ

恋のにじんだ ハンカチを
せめて片身に 残してよ
伊豆の女は あなたのくれた
嘘も苦界(くがい)の 道しるべ

別れ上手な ひと夜妻
無理に演ずりゃ 身も細る
天城(あまぎ)おろしに 傘かたむけて
あなた見送る 駅の道
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