お富さん

粋(いき)な黒塀(くろべい) 見越しの松に
仇(あだ)な姿の 洗い髪
死んだはずだよ お富さん
生きていたとは お釈迦(しゃか)さまでも
知らぬ仏の お富さん
エッサオー 源冶店(げんやだな)

過ぎた昔を 恨むじゃないが
風もしみるよ 傷の痕(あと)
久しぶりだな お富さん
今じゃ異名(よびな)も 切られの与三(よさ)よ
これで一分(いちぶ)じゃ お富さん
エッサオー すまされめえ

かけちゃいけない 他人の花に
情かけたが 身の運命(さだめ)
愚痴はよそうぜ お富さん
せめて今夜は さしつさされつ
飲んで明かそよ お富さん
エッサオー 茶わん酒

逢(あ)えばなつかし 語るも夢さ
だれが弾(ひ)くやら 明烏(あけがらす)
ついて来る気か お富さん
命短く 渡る浮世は
雨もつらいぜ お富さん
エッサオー 地獄雨
×