8つ目の青春

僕が先輩を尊敬している訳は
男は恋をしていればいつだって青春だぞと
幾度倒れてもきっぱりと言い切れる その明るさと強さ
先輩は既に7つの青春を散らして来たが
その都度不屈の努力と勇気で立ち直るだけか
みごとそれを自分のエネルギーにかえて 成長したのだった

最初の春が散った時 彼が涙こらえて手にしたのは
オートバイのライセンス
ふたつ目の春がこわれた日 彼がやけっぱちで手に入れたのが
自動車免許証

何故そっちに走ったのかは謎だが次々と
春を散らす度に大きな車に乗り替えて
そんな訳で 7つ目の春が散った去年から
先輩は 2トン車に乗ってる

ひどい照れ屋で無口で おせっかいで涙もろくて水虫だけど
気前がよく間抜けだが強くて優しい
こんないかした男の魅力に誰も気づかないとは 女たちは ばかか
青春を没にしたあと いつも僕を用賀まで呼び
高速料金所のカード おじさんから無愛想に
ひったくって あてどない傷心の旅に出るのが唯一悪いクセだった

先輩がついに8つ目の春に挑んだ相手は可愛ゆい
利口で優しいすてきな娘
今度こそはと 思わず僕はお百度参りに水ごり
それとこっそり不安の旅支度

僕のそんな願いを 踏み散らかして
半年たたずに電話が来たよ あの場所で待てと
環8 午前5時 朝靄をけたてて
やって来たのは 4トン車

処が何と助手席にちょこんと座ってるのは8つ目の
可愛ゆい青春ではないかいな
先輩はおでこぽりぽり 赤い顔して無愛想に言う
そんな訳でよ ちょっと行ってくるからョ

バンザイ やったね Vサインでも出してよ
料金所でカードも ひったくらずに済むもんね
ちょいと 8つ目の青春 あんたは偉い
頼んだぜ 先輩をヨロシク

バンザイ! さっそうと、でもないけど去りゆく
4トン車の背中に キッス投げて振り向けば
ほんの少し寂しそうな僕の荷物越しに
蒲田方面から 朝の日射し
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