この歌詞のすべてが、本当に書けてよかったなって思います。

―― アルバムのなかで今の竜馬さんの心境に、もっとも近い楽曲を挙げるとするとどの曲でしょうか。

うわー難しいなぁ…。でも意外かもしれないですけど、今の気分的には「Blowing in the Wind」かな。すごく軽快な曲なんですけど、なんかもう、一周まわって、この状況でやれることを探しながらやっていくしかないやん!みたいな。あんまり考えすぎてもしゃーないし!っていう振り切り方になっているモードなんですよね。

―― アルバムのなかでもっともひらけている楽曲ですよね。

そうそう。失敗しないとか、大事なのはそういうことじゃないというか。だって今、コロナウィルスの問題で何が正解か不正解かって、もはや政府でもわからないわけじゃないですか。初めての経験で、みんなが手探りで。俺らも、どういう方法でライブをしていくか、どういう方法で音楽活動を続けていくべきか、わからない。でも、何もやらないよりかは、失敗から成功や正解が見えてくることもあるから、とにかく何かやっていこうと思うんです。

―― では、アルバムのなかでとくに「書けてよかった」と思うフレーズを教えてください。

それは「Tragicomedy」ですね。この歌詞のすべてが、本当に書けてよかったなって思います。とくに2番のAメロの<喜んでみたり 時に落ち込んだり 心もきっとさ 自由になりたいんだね>というフレーズは、現時点の自分の“心とは?”の答えなのかなって。人間がこれだけ「自由になりたい!」って言っているんやから、一緒に生きている“心”も突然悲しんだり、怒ったり、自由になりたがるのは当たり前やんって。そう思えると、自分をちょっとでも認められるようになるかなと、そういう想いで書きました。今回のアルバムとしても、ちゃんと“心”というテーマのひとつの答えを提示できてよかったなと思います。

―― 歌詞を書くときに好きでよく使う言葉、反対に、あまり使わないようにしている言葉はありますか?

このアルバムに関しては意図的に“心”というワードを多用しているんですけど、作詞家として、できるだけ同じ言葉を使いたくないという気持ちがあるので、好きで使う言葉はないかもしれないですねぇ。

使わないようにしているのは、難しい言葉、堅い印象の言葉ですね。文字で見たらわかるけど、聴いただけじゃ耳に馴染みがないような。今回の「Unforgive」では<贖罪>とか<業火>とか<金輪際>とか強いワードを入れているんですけど、それもやっぱり意図的なもので、普段はなるべく避けています。わりと自分が聴いてきた好きな音楽って、ダイナミックなメロディーでダイナミックに歌っている洋楽が多かったので、そこに日本語を当てると考えたら、堅い言葉は相性がよくないんだと思います。

―― 歌詞面で影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか?

影響なんて受けてないやん!って思われたら恥ずかしいんですけど(笑)、大好きなのは“ハナレグミ”と“くるり”ですね。この2組は作詞面でもめちゃくちゃ尊敬しています。それこそ、難しい言葉を使わないんだけれども、かといってありきたりな表現をしないんですよね。深読みできるし、響く。そういう言葉の魔法を持っている気がします。

とくに、くるりの「言葉はさんかく こころは四角」なんて秀逸やと思いましたね。僕らは心で思っていることの半分、さんかくでしか言葉で伝えられないって表現なんですけど。もはやすごすぎて腹が立ちました(笑)。<まあるい涙よ 飛んでゆけ>ってフレーズもすごく可愛いし。言葉遊びの部分で、しっかり自分の伝えたい想いも表現できるって、才能の差を見せつけられた曲やったなぁ。

―― やはり、お話をお伺いしていると、バンドを始めた頃と今とでは、歌詞への重点の置き方がまったく違うことが伝わってきますね。

ホンマにそうです。もちろん、自分が洋楽で感動するという経験もいっぱいしてきたけど…。やっぱり日本語でくるりとかハナレグミを聴いたときに、救われる感覚というか、印象に残っている度が全然違うんですよね。それに昔は、自分の“はけ口”として音楽を表現していたから、別に英語でもよかったし、なんなら誰かに伝わらんでもいいと思っていました。自己満足でしかなかった。それが、誰かのために書くようになった今とでは、だいぶ変わりましたね。

―― かつては“はけ口”だった音楽ですが、今の竜馬さんにとっての“歌詞”とはどのような存在ですか?

歌詞を書くことが、自分を知ること、ひとを知ることになっていますね。歌詞をブワーッて書いて、できあがって、こういうインタビューで「これってどういうことですか?」と訊いていただいて、それに答えていくうちにようやく自分のことをまたひとつ知ることができたり。そのためだけに書いているわけではないけれど、そういう大切なツールにもなっているんです。作詞っておもしろいなぁと思います。

―― これから挑戦してみたい歌詞はありますか?

photo_01です。

日本に限らず、問題視されている社会の出来事に対して自分の見解を歌えるようになりたいですね。わりと日本ではそういうものが嫌われるかもしれないですけど、それをただただ社会問題として歌詞にするんじゃなくて、私生活に絡めて、落とし込んで、自分なりの言葉で何か伝えられたらいいなと思いますね。自分が憧れている同世代の海外のアーティストも、バンバン発信していたりするので。そういうことも大事なんじゃないかなと。

―― 今作の収録曲「Ugly」などは、その兆候が見られるような気がしますね。

そうそう、自分でもそう思います!今までまったく書いてこなかったような歌詞なんですけど、ちょっとじわじわSHE'Sの音楽として馴染ませていこうかなと(笑)。

―― ありがとうございました!最後に、これからのSHE'Sの目標を教えてください。

来年、結成10周年なのでまずはそこに向けて、すごいお祭りをしたいなと思っています。ライブの企画にしろ、何かしらみんなが喜んでくれるようなイベントをしたいなと思っているので、それまでにまたいい曲をどんどん書いていきたいですね。もっとヒットして、いろんなひとに届くような曲を。そして最終的には、自分たちの地元の万博公園でフェスを開きたいので、それができるような、アーティストからもお客さんからも愛されるバンドになりたいなと思います。


前のページ123