歌詞は、私にとっての相談相手なのかもしれません。

―― では、作詞についてもう少しお伺いしていきたいのですが、普段曲作りはどのようになさるのですか?

私の場合、主に2パターンありますね。作詞が先のときと、同時進行のとき。自分の作曲が先というのはなかなかないです。やっぱり自分の気持ちじゃないと歌えないし、良いものにならないという想いが強いので、一番大事にするのは歌詞なんじゃないかなって。だから作詞を先にすることが多いですね。

あと緑黄色社会はメンバー全員が作曲をするので、その場合は、作曲が先のときもあります。そうすると、自分と重なるところはありつつも、主人公像が変わってくるところはあるかもしれません。書いたひとの性格も反映されるし、曲調も自分が作るものとはまったく違ったりするので。自然と影響されて、自分の作曲では出てこないような歌詞が生まれたりということもよくあります。

―― 人称は<私>と<僕>、<君>と<あなた>などで使い分けの基準はありますか?

基本的には<私>という主人公が多いんですけど、無意識のうちに、男子メンバーが作ってくる曲には<僕>ってハメがち。あとは<私(あたし)>じゃなくて<私(わたし)>と歌うところも自分の特徴かもしれないです。たとえばaikoさんだったら<あたし>が多いじゃないですか。でも私の場合はなぜか<わたし>なんですよね。なんでだろう…多分、やっぱりネガティブな歌詞が多いから(笑)。その感情に合う一人称は<わたし>なんだろうなと思っています。

―― ネガティブ系な緑黄色社会の<私>楽曲というと、個人的には「サボテン」が好きです。

それめっちゃ嬉しいです!実は私も大好きなんですよ(笑)。自分でもよく書けたなと思います。この歌では自分がずっとモヤッとしていた【愛】に対する気持ちをテーマにしたので、本当に出し惜しみしたくなくて。このモヤモヤを知ってほしいという想いで世に出したんですけど、男子メンバーからは「へぇー、長屋はそういうふうに思うんだ!意外!」みたいな反応で。そこで男女の考え方の差を感じましたね。

―― この歌は、たっぷり愛を注いだのに、そのせいで逆にサボテンが枯れてしまったという切ない歌ですが、男性陣はどう感じたのでしょう。

恋愛ってよく「重い」って言葉が使われがちじゃないですか。でも私はその表現が好きじゃなくて。ただただ一生懸命に誰かを愛していることを、どうしてそういう悪い言われ方をされてしまうのかずっと腑に落ちなかったんです。重いんじゃなくて、単純にお互いが合わなかっただけ。愛していた事実を否定されたくないし、否定したくないなという想いで書いたんですね。でも男性からすると「でも重いものは重いよ!」と(笑)。

―― なるほど…(笑)。ちなみにメンバーはいつも晴子さんの歌詞について、何か意見をしてくれたりするのですか?

この「サボテン」みたいに「あー、そういう考え方もあるんだね」とか「長屋ってそういうことを考えていたんだ」とか、感想を言ってくれることはあるんですけど、否定的な意見を言われたことは一切ないですね。どんな歌詞でも受け入れてくれるというか。そこを任せてくれているのは、ありがたいなと思います。

―― 作詞をする際の、必須場所などはありますか?

よくカフェとかで作詞をされるというアーティストさんもいますけど、私はあまり雑音が入ってくる場所ではできないし、したことがないですね。いろんなことに気を取られてしまって、自分の気持ちに集中できないから。やっぱり家が多いかな。あと「降りてくる」という感覚があるのは、お風呂(笑)。降りてくるたびに、出て、入って、また出て、ということをよくしています。

―― 歌詞を書くとき、いちばん大切にしていることは何でしょうか。

自分と向き合うことですね。自分のなかで消化しきれない歌詞では歌いたくないし、そういう歌詞はそもそも出てこない。話すことが苦手なこういう人間だから、歌手になったんだと思うし、だからこそとことん自分と相談して悩みを解決したり、感情のはけ口になったりもするし、なんか作詞って自分自身を強くしていくものなのかなとも感じますね。

―― では、歌詞とは晴子さんにとってどんな存在のものですか?

なんでしょうねぇ…歌詞は、私にとっての相談相手なのかもしれません(笑)。完全に“主人公=私”ではないからこそ、自分の歌詞に勇気をもらったり、聴き返して溜まっていた愚痴を吐き出したり。あんまり人に話せないから、歌詞を話し相手にしている感じなんですよね。

―― 歌詞を書くときによく使う言葉、逆にあまり使わないように意識している言葉はありますか?

最近は本当に<愛>という言葉がよく出てきますね。意識的に書こうと思っているわけじゃないんですけど、気づいたら出てくるから、そういう時期なんだと思います。あまり使わないのは…英語ですね。というのも、苦手なだけなんですけど(笑)。でもやっぱり日本語の歌詞がすごく好きです。親世代の曲とかも好きですし。

―― 歌詞面ではどんなアーティストから影響を受けたのでしょうか。

photo_01です。

誰って特定の方を考えると難しいんですけど、昭和歌謡のアーティストの歌詞ですね。とくに昔の女性アイドルの方の歌詞って素敵だなって。その歌に描かれている女性像が好きなんですよ。可愛くて、けなげで、儚くて、男性をそっと想ったり、支えたりするような。あの雰囲気が好きで、そういう主人公の像は、少なからず自分の歌詞にも反映されているだろうなと思いますね。

―― 最近、グッときた歌詞はありますか?

Official髭男dismさんの歌詞は、どれも気持ちがストレートで好きですね。韻の踏み方とかも面白いし。私はとくに「バッドフォーミー」という曲がお気に入りです。たとえば<変わっちまったな 愛想を振りまいたり 誰が見たって 好かれそうな服を着たり 俺は落ちぶれて 鏡みたいになって 君は垢抜けて みんなの「キミ」になった>というフレーズとか、そういう価値観って私のなかにはなかったのでビックリもしたし、男性ならではの言葉遣いができるのも羨ましいなと思います。でも、いつかは私も男らしい口調の歌を歌いたいと思っていて…。

―― 緑黄色社会の<俺>ソング…!

そう(笑)、昔から憧れてはいるんですよ。私はいきものがかりさんもすごく好きなんですけど、以前、エレカシさんの「風に吹かれて」のカバーをされていたのがとてもカッコよくて。聖恵さんが<オレ>とか言うんですよ!だからそういうのもやりたいなぁと密かに思っています。

―― ありがとうございました!では最後に、緑黄色社会のこれからの目標を教えてください。

まず、お茶の間に浸透していくような国民的バンドになりたいという気持ちは変わっていません。でもそれって昔は、ただ漠然と口にしていた夢だったんですね。それが今、だんだんと近づけている実感があって、自分たち次第では本当にそうなれるんじゃないかというところに来ているんじゃないかなと思うんです。だからいろんなチャンスを逃さないように、ちゃんと捕まえながら、一歩一歩階段を上っていきたいです。あと、私は常に自信がなかったり、ネガティブだったりする人間なんですけど、自分自身が音楽に救われてきたので、こんな私の歌でも、誰かに少しでも影響を与えられたらいいな、何かを変えることができたらいいなと思っています。


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